第316話 怪談(3)猫の企み
翌日も、猫が来た。
電話が鳴り、次に今日は、「ギャアア!!ギャッ!!」という焦ったような声が続く。悠々と外へ出ると、昨日の猫が、階段の上段の方で恨めし気にこちらを見上げていた。
今日の予定の段に札を仕掛け、猫が来たら捕まるようにしておいたのだ。
「シャアア……!」
怒る猫を前に山下さんは逃げ腰だ。
「こんな事はしたくないよ。でもな」
猫相手に言っている途中で、猫は仲間を呼んだ。猫カフェを超える猫まみれだ。霊だが。
「ちゃんと話をしようよ」
「せっかちだねえ」
僕と直は溜め息をついて、飛び掛かって来る猫を、片っ端から拘束し、大人しくさせていった。すぐに、動けない猫だらけになる。
そこで改めて、最初の猫に話しかける。
「怒る相手が違うだろ」
猫はプイッと横を向いた。
「恨んだところで仕方が無いし、それよりも、うるさいあいつらが来ないようにした方が、よっぽどいいぞ。後の猫達の為になるしな」
「ニャ?」
「つまりだな」
僕と猫は、打ち合わせを始めた。
揚げたての鰯の梅しそロールはサッパリとしていて、兄の気に入ったようだ。あとは、冬瓜、やっこ、甘酢ショウガの混ぜご飯、そうめんとわかめの味噌汁。
「夏向けだな。ガッツリ食べられるのに、サッパリしてる。うん、美味い」
「良かった」
「そうだ。このところ走り屋が集まって問題になっていた山道で、変な噂があるそうだな。レース目的で集まった暴走族連中の車やバイクにだけ、事故死した猫の霊が群がるらしい。どれだけ走ろうが、何をしようが離れなくて、ひたすらじいっと光る眼で見つめて来るそうだ。
イキがってたやつは、家にも夢の中にも猫が現れては囲んで24時間鳴かれて、とうとう根を上げたらしい。
とうとう暴走族が来なくなって、元の、家族連れや恋人が来るようになったらしいぞ」
「へええ」
上手くやったようだ。
「……何かやったな」
「え?いや、僕は別に?」
「……けしかけたか」
鋭いな、兄ちゃん。流石だ。
「ええっと、ちょっと、猫と話し合いを」
「……まあ、いいか。住民も喜んでるし、集会絡みのトラブルもなくなったし」
ホッ。
「でも、たくさんの猫に囲まれてひたすらジイッと見られたりするのも、怖いな。いくら猫好きでも、霊だしな」
「うん。数で来られると怖いからな」
「新たな怪談だな」
翌日、僕と直は、展望台に行ってみた。
近所の人が作ったのか、事故死した動物の為の小さな供養塔が建っていた。
「あれ。この前来た子だね」
ここでゴミの片付けをしていたおばさんがいた。
「これは」
「暴走族連中が、お金を出し合って寄付して来たんだよ。とうとう猫に祟られて、反省したのかね」
供養塔には、水と缶詰のエサが供えてあった。
「ついでに暴走行為も反省してやめてくれたらいいんですけどねえ」
「全くだよ」
おばさんは笑って、供養塔近くのひまわりに水を撒いた。
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