第311話 新しい戦争(2)反撃開始

 海上保安庁の巡視船は、その怪獣との距離を保ち、一応警告も発していた。

「こちらは日本国海上保安庁です。あたなは日本の領海に接近しています」

 しかし、大方の予想通り、効き目は無かった。

 次に海水で放水をしてみたが、水を被っても変化は全くない。

「あれは生物なのか?」

「専門家を呼べ」

「専門家……映画監督ですか、生物学者ですか」

 現場は混乱を極め、自衛隊が出動することに決定した。表向きは、航行中に偶然発見したという筋書きになるだろうが。

 それを電話で協会経由で知らされた僕は、差し向けられた車に直と一緒に乗せられて、自衛隊の基地に向かっていた。

「怪獣は、見た事がないんだけどねえ」

 町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。

「僕もないぞ。そもそも、怪獣は架空の生き物だろ。セイウチとかの海獣はともかく」

「恐竜かねえ?絶滅してなかったやつ?UMAとかかねえ?」

「ああ。騒ぎそうだなあ、その一派が。

 まあ、現実的には実体化した霊かな」

「まあねえ。でも、いきなり海のど真ん中で?何があったんだろうねえ」

 謎だ。わからない。

「照姉が言ってたの、まさかこれかな。いや、でもなあ」

「確認するしかないねえ」

 ヘリに乗り換え、沖へ向かう。

 ヘリに乗るのは初めてだ。気を引き締めながらも、ちょっとウキウキしたのだった。


 航空自衛隊のヘリが、現場へ急ぐ。

「あれか」

「成程。ゴジラの登場シーンはこんな感じだな」

 テーマ音楽が流れて来そうだ。

 だが間違いなく、それは実体化した霊だった。

 海上自衛隊の護衛艦も周囲に展開しているし、恐らく潜水艦もいるのだろう。

「ソナーを照射してみても、変化はなかったそうです。ミサイル等による攻撃は、まだ許可が下りておらず、行っておりません」

「あれは実体化した霊です。ミサイルでも無理でしょう。浄力と物理との合わせ技でないと、有効的な攻撃にはなりません」

「もうすぐ領海内に入ります。我々自衛隊は、いかなることがあっても、領空、領海、領土への侵入を阻止しなければなりません。領土に侵入されるのは、言語道断です」

 術者だろう。あれとつながった者がいる。そしてそれ以外の者が、この怪獣ショーを見ているのを感じる。

「見られたまま、やってもいいのかな。政治に関係しそうだしな。

 あの、上の裁可を仰ぎたいんですが」

「はっ。無線をつなぎます。どうぞ」

 基地の司令官に、訊いてもらうように頼むしか無さそうだ。

「御崎です。確認しましたが、実体化した霊で間違いがなさそうです。祓うのはできそうですが、至急確認して頂きたい事があります。

 これは何者かが人為的に送り込んだものだと思われ、その術者は、今もこちらの対応を見ているようです。のみならず、他国の術者もこの件を掴んで、こちらの出方を窺っているようです。

 何かしてもしなくても、目撃されるということです。対応を間違ったら、国際的な問題にもされかねませんし、政治的にマイナスにもなり得ます。なので、政府に対応を確認して下さい」

 直は札を飛ばして、足止めの時間稼ぎを試みている。

 燃料の問題もある。

 イライラしながらも、それを見ながら待つ。

 危機管理委員会の緊急会議か臨時国会か知らないが、政府の決定が伝えられたのは20分程後だった。予想よりも早いと言ったら悪いだろうか。

「そのまま伝える。『舐められるな。怪獣を祓った上、できれば犯人にも覗き屋にも痛い目を見せてやれ。どうせ犯人も覗いてたやつも、文句を言えば己の行動がばれるのだから何も言えん。手加減は無用』だそうだ」

「ええっと、それは誰が……?」

「総理だ」

「はは。気が合うな。

 了解しました。では、遠慮なく」

 直も楽しそうに笑っており、パイロットの口元も笑っていた。

「あとどのくらいここで飛んでいられますか」

「帰投を考えるなら2分ですが、下の護衛艦に着艦できれば15分です」

「じゃあ、直。ここから頼む」

「OK」

「さあ、行こうか」

 ドアを開け、僕はパラシュートなしスカイダイビングを開始した。









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