第310話 新しい戦争(1)怪獣出現
海洋進出が既定路線である我が国は、周りの国が何と言おうと、関係ない。どうせ、アメリカも日本もフィリピンも、本当にことを構える気などないのだ。反日で我が国民を煽動すれば、韓国も反日で盛り上がって日本は孤立する。もう少し突けば日本の国会議員ですらも武力行使反対を強硬に主張するし、何もできない。
「だからその前に、手を打っておこうというわけですか」
「目に見える兵力では、まあ、非難する隙を与えないとはいえないしな。それに、領土、領空に侵犯すれば、流石に黙っていないだろう。だからその前に、我が国が関与した証拠を残さずに、自由に動ける力は削いでおきたい。できるな」
「はい、お任せください。党の為、必ずや日本に打撃を与えます。あの霊能師がいても、必ず討ち果たして見せます」
「うむ」
その日、新しい戦争の形が生まれた。
カニクリームコロッケ、唐揚げ、春巻きを揚げ、大皿に盛る。
「はい、できたよ。フライの盛り合わせ」
言うと、揚げ詰めの鍋を覗いて煮汁の量を確認する。
「持って行くぞ」
兄がそれを、リビングに運ぶ。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視だ。
我が家では時々、宴会が催される。それも、人よりも神や神に準じた者が多いという、あまりない宴会だ。
「おお、来た、来た。これがビールには欠かせん」
そう言うのは照姉こと天照大御神。心が漢前なハンサムウーマンだ。
「俺は唐揚げがいい」
「春巻きが何種類もあるわよ」
「いや、この枝豆が鉄板だろう」
「ピンチョスが気に入ったわ、私」
「ワイン開けましょ、ワイン」
口々に言い合うのは十二神将の面々である。
「ヨーロッパに来たんなら、声をかけてくれたらよかったのに」
そう笑うのは、イエスキリストだ。
「しかし司がとうとう結婚を決意したか。めでたいな。祝に、安産になるようにしてやろう」
「父親になるなら、司にも、更に健康と金運がいるな」
「家内安全を授けよう」
いつものメインメンバーに加えて宴会に参加したほかの神も、口々に祝の言葉を口にして、上機嫌でグラスを合わせ、兄が礼を言う。
「こんなもんかな、取り敢えず」
「怜も早く来い。ほら。
よし。もう一度乾杯するぞ。かんぱーい!」
神でも何でも、酔っ払いは酔っ払いだった。それでも、ありがたい事だ。
散々飲んで、食べて、笑って、宴会が終了すると、イエスとゲストの神々は、ご機嫌で帰って行った。
残った照姉と十二神将と一緒にアイスクリームを食べていると、ふと、照姉が言った。
「そう言えば、近頃大陸の方がザワついているとでもいうかな。どうもおかしいぞ。この前の戦争の時にも似ているが、ううむ」
「どこだろう。朝鮮半島かな、中国かな」
「わからん。だが、気を付けていた方がいい。こちらを窺っている目は、東にもあるしな」
アメリカだろうか。
「我々も、警戒していよう。今日来た連中にも、気を付けるように根回ししておいたがな」
「うむ、そうだな」
神様も根回しするのか。いや、根回しの舞台がうちでの宴会でいいのか?こんな事、古事記にも書けない。
「外事の連中も、やたらと忙しそうにしていたな。それも、どの課も」
兄も、言い出す。
「世界大戦?」
「その兆候は流石に無さそうなんだが、それにしてはおかしい動きだしな」
「まあ、注意しておけ。世界は常に新しく変わっておる。戦争の形が変わったとて、不思議はなかろう」
「はい。ご忠告、ありがとうございます」
そして、神達は皆帰って行った。
一緒に片付けをしながら兄はまだ考えているようだったが、終わると言った。
「報告を上げておいた方がいいな」
「神が言ってたって?」
「……まあ、うちにいらっしゃるのは、周知の事だからな。それでいいだろう」
「そうだな。今更だよな」
兄は早速、電話をかけ始めた。
温度の違いによる光の屈折などで、海上に、幻が見える事はある。蜃気楼などだ。路上でも同じように、陽炎、逃げ水という現象が見られる。
だがそれは、何だろうか。見つけた漁師達は、ポカンと手を止めて、それを見ていた。
「怪獣映画?」
「ゴジラか。懐かしいな。ハリウッドのやつより、子供の頃に見たヤツの方が好きだな」
「それはどうでもいいけど、あれ、何?」
距離は大分あるが、大きな何かがゆっくりと近付いて来る。海面を滑るように。その姿と大きさは、まさに怪獣。
「……わからん。海上保安庁に連絡した方が良さそうだな」
ようやく驚きから立ち直った漁師達は、恐怖という感情に突き動かされながら、慌てて網を引き揚げ始めた。
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