第307話 心霊特番・イギリス(1)閉じ込められた夜
イギリスは幽霊が多いし、皆好きだ。事故物件なんて、日本だと価格が下がるが、イギリスではむしろ上がる。よくわからない国民性だ。
そんなイギリスでロケに向かうのは、グレーフライアーズ・カークカード。映画『ハリーポッター』のロケ地にもなった墓地だ。
昔、キリスト教長老会への執拗な弾圧により、墓地内の刑務所に1200人が投獄され、その内の約1000人が残虐な方法で虐殺されたらしい。その後、医学生が解剖実習のために遺体を掘り起こして盗んだことからも、怨嗟の念が消えないという。その上、ここの霊堂に霊を封印していたのを1999年にホームレスがドアを開けて解いてしまい、墓、礼拝所では、つねられたり、叩かれたり、骨折したり、かみつかれたり、激しい色々な事が起こるようだ。
「というわけなんですけど、大丈夫なようですね」
高田さんが言うのに、直が首を傾けて言う。
「札で結界を張ってるから無事なだけで、結構攻撃は来てるねえ。結界、外そうかねえ?」
「え」
美里様以外、狼狽える。
美里様は狼狽えなかったが、平気なわけではない。スッと、僕と直の間に入り込んだだけである。
「このままでお願いします」
「外さないで下さい」
ミトングローブ左手右手とえりなさんは、ペコペコと頭を下げた。
固まったまま、歩く。
と、ハリーポッターのファンが、手紙や花束を持って来ていた。映画以来ファンが多く来るらしく、献花された花束や手紙はたくさんある。
「聖地巡礼ですね」
ミトングローブ左手右手の片方が言い、何となく皆で、その高校生くらいの彼女達を見ていると、突然、1人が鼻血を流し始めた。
「興奮?」
「霊障です。ディレクター、保護します」
言いながら、彼女達に足早に近付いて行く。だがその間にももう1人に殴り掛かった霊がいて、
「痛い!」
と声を上げて、カクッと不自然にしゃがみ込んだ。
近くで虎視眈々と攻撃を続けようと狙っている霊だけは軽く浄力で追い払い、とにかく彼女達を、直の結界へ入れる。
「何なの!?」
「痛い、痛い!」
足を引っかかれているようだ。
「少しは痛みがマシになると思うんだけどねえ」
直がのんびりとした英語で、彼女に札を渡す。
「何かしましたか。霊を怒らせるような事を」
訊くと、2人は顔を見合わせ、
「写真撮ったり、色々見たりしただけよ。ねえ」
と言う。
「どこを?どんな風に?」
「えっと、お墓に座ったり、墓穴が見えたからちょっと覗いたり」
英語のわかる、僕、直、美里様、高田さんが絶句した。
「それは、怒られるかも知れないよ」
「ええ。敬う気持ちがないもの」
彼女達は泣きそうになっていたが、ディレクターが、
「ここを出るまでは保護しましょう」
と言うので、安心したらしかった。
が、次の瞬間、全員、黙り込んだ。
夜間は閉じられて立ち入り禁止になる扉が、閉じられる音が響いて来たからだ。
「え、何で……私たちがいるの、わかってるでしょ?」
「霊の干渉ですね」
「……」
「朝まで頑張りましょうかねえ」
「持久戦だな」
ディレクターが、小さくガッツポーズをして、
「よし!図らずもいいロケになったな」
と喜ぶ。
「怖い!嫌!出たい!」
えりなさんが泣き出した。
恐怖との戦いの夜が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます