第303話 心霊特番・イタリア(3)ダンス

 公園の一角にマルコさんを呼び出し、可視化の札を貼り付ける。

「こんにち……あ……」

 美里様を見て、目が釘付けになる。

 写真を見て、本当にマリアさんに似ている事に驚いたが、更に美里様は柔らかい微笑みをうかべ、急いで作った靴を履いた足元を見せながら、

「お兄ちゃん。ありがとう」

と言ったのだ。勿論、イタリア語で。

「マリア……」

 曲の演奏が開始され、まずは、美里様はマルコさんと踊る。ゆっくりなワルツだ。

 そこからアップテンポに変わり、次々と、エキストラというべき人と踊る。マルコさんの弟弟子、店員、近所の学生、花屋――。

 マルコさんにとっては、美里様は、今、マリアさんだ。

 やれやれ、上手く行きそうだな。ホッと安心していたら、曲がまたワルツになった。

 新郎に似た感じのやつをむりやり探して、特殊メイクばりにメイクして用意したのだ。まあ、この分じゃ新郎の顔まで見て無さそうだがな。

 思っていたら、美里様はこちらに手を伸ばしてきやがった。来やがった、だ。

「……おい」

「自分だけ楽するつもり?」

「……ダンスは、盆踊りからフォークダンスに至るまで、好きじゃない」

 冷や汗が背中を伝った。

「練習はしたわよね」

「……ドSか」

 小声の早口で、笑顔と無表情のままかわす。

「早くしないと、不自然よ」

「クソッ」

 動きは記憶している。

 死ぬ気でやった。実際目は死んでいたかも知れない。

 どのくらい恥をさらした頃か、マルコさんが、涙声を出した。

「マリア、幸せそうで安心した。マリア……いや、ありがとう。本当に、ありがとう」

 そして光りながらさらさらと消えて行った。

「ああ……逝ったわねえ」

 皆で、ジッと見送る。涙ぐむ人もいる。

「ありがとう。兄弟子のためにここまでしてくれて。ありがとう」

 靴屋の親方は、おいおい泣いていた。


 イタリアを離れる時が来た。靴はマルコさんの形見として、ショーケースに飾るそうだ。それがいいだろう。

 実際のマリアさんは、爆撃で亡くなったそうだ。そして結婚するはずだった相手は、戦地に行って戦死したという。

「さあ、次はスペインだ」

「情熱の国だぞ」

 しんみりしていても仕方がない。僕達は、晴れ渡った空を見上げた。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る