第302話 心霊特番・イタリア(2)女王様、特訓する
靴職人である彼は、マルコと名乗った。
「妹が結婚する事になって、妹がお祝いに靴を作ってくれって言うんですよ」
「それはおめでとうございます」
話していると、美里様が袖を引っ張る。
「ねえ、ねえ。何語で喋ってるの」
「イタリア語。マルコさんはイタリア人だから。
ああ、彼は靴職人のマルコさん」
姿が見えるように、札を貼り付けている。
「初めまして。ボクは、直ですぅ。な、お」
「ナオ。マ、ル、コ」
マルコと直は、にこにことして、もう馴染んでいる。
「信じられない……」
現地のコーディネーター兼通訳が、皆に通訳を始めた。
「それで、どうしたんですか」
「はい。結婚の披露宴で、ボクの作った靴を履いて踊りたい。ボクの靴でお嫁に行きたい。そう言ったんです。
物資も無いし、お金も何も無い。ボクがしてやれるのはそのくらいで、ボクは一生懸命に制作に取り掛かりました。それでやっとできて、渡そうと思ったのは覚えているんですが……その、爆撃を受けてその後死んでしまったので、靴を渡せたのかどうか、妹は無事に嫁いで幸せになったのかどうか。一目、見たかった……。こちらの彼女が妹に似ているので……つい」
「なるほど、それは気になりますね」
「どんな靴だったのかねえ」
「あ、これがスケッチです」
マルコさんがポケットから折りたたんだ紙を取り出す。そこには、色鉛筆で丁寧にヒールのスケッチが書かれてあった。
カメラもジックリとそれを映す。
「わかりました。任せて下さい」
「いいんですか!?」
「乗り掛かった舟ですし、袖すり合うも他生の縁と言いますから」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
マルコさんは笑って、取り敢えず消えて行った。
「ちょっと、どうするんですか?」
「美里様に憑いた状態だから、納得させて成仏させた方がいいかと思いますが」
「憑けたままとかで行きますかねえ?疲れるでしょうけどねえ」
「やめてよ」
「強制除霊?」
「まあ……気の毒だし、仕方ないわね」
美里様の一声で、今後の方針が決まった。
「では、ここから緊急企画、マルコさん成仏作戦とします」
ディレクターが言った。
「では早速、お願いがあります」
僕は彼に向き直った。
「何でしょう」
「さっきのデザイン画の通りの靴を、作って下さい。もしくは探して下さい。
それと美里様。ダンスの練習です」
「はい?」
各々が忙しく動く。靴の調達と、ダンスの練習。
結婚式の後、花嫁は父親、兄、友人などとダンスを踊るらしい。そして最後は、新郎だ。確か、映画でもそうしていた。
それを、当時の曲で再現してやろうと思う。
「靴は、近所の靴職人が急いで作ってくれるそうだよ。マルコさんの弟弟子だった人だって」
スタッフが興奮して帰って来た。
「それと演奏は、妹のマリアさんの親友のお孫さんがバンドをしてて、やってくれるって」
別のスタッフも、笑顔で報告する。
「そうですか。それは良かった。
では、靴は急がせて下さい。それと美里様。今日から少しだけ、イタリア語を覚えてもらいます」
「え」
「なあに、ほんの20パターンくらいですよ。セリフと思えば、朝飯前でしょう。よっ、名女優」
「……やっぱりSだ」
準備は粛々と進んで行くのだった。
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