第301話 心霊特番・イタリア(1)ポヴェーリア島
初めての海外旅行とあってドキドキしていたが、長いヨーロッパまでのフライトに少々飽きた頃、イタリアの地が眼下に広がった。
「なんか、パズルの模様みたいだな」
何かの畑だろうが、パッチワークみたいに色が違っているのが見えてそう思った。
「イタリアかあ。パスタとピザのイメージかねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
「ムッソリーニ」
「斜塔」
「荘厳なようで派手で明るい感じ?」
「芸術性が爆発してる」
「何やってんの。連想ゲーム?」
隣から、美里様が胡散臭い目で見て来た。
霜月美里。当代を代表する、美人であり且つ演技派の女優だ。性格がきつく見えるので「美里様」「女王様」と呼ばれているが、照れ屋で努力家なだけである。春先に仕事を通じて知り合い、時々、メールする仲でもある。
「あ、まあ」
「イタリアと言えば、てねえ」
「イタリア?サッカーでしょう」
「だよな」
ミトングローブ左手右手が乗って来た。
若手の人気芸人コンビらしい。未だに、どっちが右でどっちが左かわからない。
「ファッションでしょ」
そう言うのはえりなさん。人気グラビアアイドルらしい。
「俺は車かな。フェラーリとか憧れるよ、やっぱ」
高田さんがニコニコして言った。
高田コージさん。タレントだ。
このメンバーで春に心霊特番に出たのだが、僕と直はまた頼まれて、『夏の心霊特番ヨーロッパ編』の依頼を受けたのだ。
ミトングローブ左手右手とえりなさんが怖がって騒ぐ賑やかしで、美里様が冷笑して否定し、高田さんがまとめ役という役割である。
僕と直は、本当に危ないものから皆を守るという役目なのだが、なぜか、ポロッと言って怖がらせる事を期待されている。おかしい。
が、まあ、イタリア、スペイン、イギリスに行く事になっている。
「まずはナポリピザやパスタのグルメで食事シーンを撮って、夜に撮影に入りまあす」
スタッフの声に「はあい」と返事をして、僕達は着陸に備えてシートベルトを締めた。
兄ちゃんにお土産何かいいのあるかなあ。冴子姉の喜ぶものは、うーん、パンチェッタ?
そんな呑気な事を、考えていたのだった。
食事は、「美味しい」「ヤバイ」しか言わないえりなさんと、「凄い」「うわあ」ばかりのミトングローブ左手右手。美里様はきれいに食べるがコメントは少なめで、高田さんが1人で「このチーズの伸び!コクがある!」などと奮闘していた。気の毒に。やっぱり高田さんは、苦労性だな。
撮影の後は皆で食べ、いよいよ、現場へ行く。
ポヴェーリア島。ローマ時代はペスト患者の隔離施設だったこともあるが、20世紀になって精神病院になり、医者が残虐な人体実験をしていたという場所らしい。
暗い建物の中に、ベッドや手術用ライトなどが放置され、雰囲気がある。いつかのようにメスやピンセットが飛んで来るのではないかと警戒していたが、それはないらしい。
ただ、人影がよぎり、悲痛な叫び声が響く。
「いるの?いないの?大丈夫?」
高田さんが訊く。
「ここは大丈夫ですよ」
「あ、そう?」
「今の所、影がよぎったり、叫び声が響いてるだけですから」
「出たあ!」
「しかも今の所!」
美里様以外、ガクーッとして見せる。
と、急に撮影用ライトが消えた。それで、一斉に
「キャーッ」
とか言いながら、僕と直にしがみついて来る。
「大丈夫です」
「ライトを消してアピールしてきただけだからねえ」
「なあ、あんたらの心臓って何製?」
「日本製」
「意味がちっがーう」
撮影は和やか(?)に進み、施設を一周して、表に出て来た。
「はい。げっそりする思いでしたけど、見学、して来ました」
高田さんが言って、チラッとこちらを見て来る。
それはわかるが、でも、こっちも見て来る。
「あの、怜君、直君?」
「ええっと、そこに別口の方がいるんですけどどうしましょう?」
「嫌だもう!」
優し気な青年の霊は、美里様にくっつくように立って、ニコッと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます