第287話 死後婚(2)新入部員

 浮かれたような上気した顔で歩くのは新1年生だろう。去年は僕達もこうだったんだろうな。そう思いながら、勧誘合戦に忙しいサークルの混雑を抜けて、部室へ向かう。

 御崎みさき れん、大学2年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。

「去年の勧誘はうっとうしかったな」

 言うと、直も、

「全くだねえ」

と苦笑いを浮かべた。

 町田まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。

 部室が見えてきたところで、その2人が目に飛び込んで来た。

「あ、怜せんぱーい!直せんぱーい!」

 ぶんぶんと嬉しそうに手を振る1人と、その隣で笑う1人だ。

「楓太郎と宗じゃないか!」

 僕達も嬉しくなって、足を速めた。

「お久しぶりです、先輩!ぼくらも受かりました!」

 楓太郎が、シッポがあればぶんぶんと振っているだろうという勢いで報告してくる。

 高槻楓太郎たかつきふうたろう。高校時代の1年下の後輩で、同じクラブの後輩でもあった。小柄で表情が豊かな、マメシバを連想させるようなタイプだ。

「また、お世話になります、先輩」

 宗は、頭を下げる。

 水無瀬宗みなせそう。高校時代の1年下の後輩で、同じクラブの後輩でもあった。霊除けの札が無ければ撮った写真が悉く心霊写真になってしまうという変わった体質の持ち主だ。背が高くてガタイが良くて無口。迫力があるが、心優しく面倒見のいい男だ。

「宗はてっきり芸大とかに行ってカメラマンを目指すのかと思ってたなあ」

「自分、教師を目指そうと思うんです。それで、文学部に。写真は、趣味で」

「そうなんだねえ。うん。頼りがいがありそうでいいねえ。

 楓太郎は、税理士かねえ?」

「はい!経験を積んで、いつかは家で開業するのが目標です!」

「そうか。ご両親も近くで安心だな」

「はい!」

 とにかく2人を部室に誘い入れる。

 サークルの中に心霊研究部があったので、もしやと思ったそうだ。

「オカルト研究部もあっただろう」

「あっちは人数も多いし、勧誘活動もしていたので、ないな、と」

「先輩達なら、部室目当てに部に入っても、面倒臭いことはだめでしょ。なら、勧誘活動してないこっちだと思ったんですよ。な!」

 ニコニコと楓太郎が言い、宗が頷く。こいつらも、いいコンビだな。

 と、ドアが開いて、真先輩と智史が顔を覗かせた。

「おや。お客様かな」

 真先輩がのんびりと言う。

 南雲 真。1つ年上の先輩で、父親は推理作家の南雲 豊氏、母親は不動産会社社長だ。おっとりとした感じのする人で、怪談は好きなのでオカルト研究会へ入ってみたらしいのだが、合わなかったから辞めたそうだ。

「いらっしゃい」

 智史が明るく言った。

 郷田智史。いつも髪をキレイにセットし、モテたい、彼女が欲しいと言っている。実家は滋賀でホテルを経営しており、兄は経営面、智史は法律面からそれをサポートしつつ弁護士をしようと、法学部へ進学したらしい。

「ああ、こいつらは高校時代の後輩です。高槻と水無瀬。同じクラブの後輩でもあって、無事に合格したので顔を見せに来てくれて」

「部長の南雲先輩と、郷田君だねえ」

 楓太郎と宗は立ち上がり、揃って頭を下げた。

「高槻楓太郎です。よろしくお願いいたします」

「水無瀬宗です。よろしくお願いいたします」

「南雲 真です。一応1年上なんで部長になってます。よろしくね」

「郷田智史。わからん事とか、なんでも言うてな。よろしくな」

 にこにこと笑い合うのを見ながら、お茶でも淹れるかと立ち上がった。

「では、自分達も入部したいのですが、よろしいでしょうか」

「いいけど、他も見て回らなくていいの?」

「はい!」

「じゃあ、よろしくな!」

 あっという間に馴染んでしまっている。

 それで取り敢えずお茶で乾杯をしたのだが、ここで、来客がやって来た。

「あの、相談なんですが……よろしいでしょうか。友人なんですが、憑りつかれてるんじゃないかと……」

「はい、とにかくどうぞ」

 新学期第1号の相談者だった。


 



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