第285話 望む(4)うっかりミス

 霊に憑依されているメンバーを見て、他のメンバーは興奮していた。

「やっぱりヒトを使う方が良かったんだよ」

「細かい言葉も伝わるしな」

「知能が違うもんな」

 ホームビデオを持っていたカメラマン役のメンバーは、記録として録画を始めていた。

「何?SFXの3D?いや、メガネしてないぞ。これはどういう原理なんだ?」

 千野さんは千野さんで興味津々で、陰陽課員に、部屋の端に連れて行かれている。

「追い出して、祓おう」

「じゃあ、囲うかねえ」

 飛び掛かって来るのを避けながら、直が工場から出られないように結界で囲う。

 その後、浄力を当ててメンバーから霊を引き剥がす。

 憑かれていたいたメンバーはクタッと倒れ込み、他のメンバーは、勢いを失くした。


     オノレェ セッカクカラダガテニハイッタノニ

     マタ ウバッテヤル


 霊は、メンバーを値踏みするかの如く、ジロリと見た。それでメンバーはすくみ上る。

「そうはいかない」

 バッサリと斬って、終了だ。

 あっけない終わりに、メンバーはキョトンとし、次にガックリと項垂れた。

「何でだよ。弱者はずっと虐げられっぱなしか」

「だからって、霊を依りつかせて襲うのはだめですよ」

 言ったが、彼らは泣きながら主張を始める。

「どうもできないだろ。力を持つ者は持つ者を擁護して、俺達の話を聞いてはくれない」

「押し付けるように金を貸しておいて、ちょっとの事でサッと引き上げる。残ったのは土地が化学物質で汚染されていて売れないこの土地だけで、毎年税金はかかるし」

「ノルマ未達成だから正社員登用無しって、お前もやってみろって言うんだよ」

 僕と直は困って顔を見合わせた。陰陽課員も深々と嘆息したが、そこは慣れているのか、淡々と仕事を進めて行く。

「それとこれとは別でしょ」

「詳しい事は署で聞くからね」

 と、彼らをテキパキとパトカーの方へ連れて行った。

「あれができないとだめなんだな」

「そうだねえ。ボク達はまだまだだねえ」

 僕と直は、彼らを見送った。

「君も、あからさまに怪しいバイト話に引っかかるんじゃないよ」

 徳川さんが、千野さんに言い聞かせていた。

「はい。すみません。全然疑ってませんでした」

 千野さんはショボンと項垂れ、事情を説明するためにパトカーへ乗せられた。


 廊下で、連絡を受けて急いで来た由利さんと一緒に千野さんを待つ。

「ああ。流石に俺が聞いていれば、怪しいって言ったのに……」

 由利さんは嘆息した。

「全然集まっていないんですか」

「だめだね、残念ながら」

 どうせ貰い物のくじだしな。出資してパアになっても、まあ、いいか。

 僕は財布から当たりの宝くじを出した。

「これ、当たってるんです。僕にできるのはこのくらいですけど。くじなら、まあ」

 由利さんは弾かれた様に顔を上げ、宝くじを見て、両手で受け取った。

 調書を取り終わった千野さんと由利さんが帰って行くと、直が笑って言った。

「出資、いいのかねえ?戻って来ないかも知れないのに」

「たまたま当たった宝くじだから、まあ、いいや。人生初の30万円だったけど」

「まあ、あれだねえ。その内、何かいい事で帰って来るよ、うん」

 僕達も、家に帰った。

 翌日、部室に笑顔で駈け込んで来た千野さんと由利さんに、頭を下げられて驚いた。

「3000万円も、ありがとう!」

 何!?

「必ず軌道に乗せて、配当金としてこの恩は返すから!本当にありがとう!」

 そして、2人は嵐のように去って行き、後には、呆然とした僕と直が残された。

「え、3000万円?怜?どういう事?」

「あれ?スマホで確認して、あ……そう言えば、目を離してからもう一度見た時、何か違和感があったんだったな」

 スマホで、当選番号を見る。勿論番号は控えていないのでわからないが。

 見た時と同じように、当選番号――3000万円だというから、それを画面の一番上になるようにしてみる。

 表の線の位置が、何か違う。指先をチョイと当てて画面をずらす。

「ああ……指が、当たったんだなあ」

 一番上に、30万円の欄がきていた。

「今更、間違えたので返してくれとは言えない……。しかたないな」

 人生最初で最後の高額当選だと自信をもって言えるのに。

「ショックは大きいねえ。でも、まあ、いい事あるよ、きっと」

「うん。たかが、くじだもんな。棚ぼただもんな。当たらなかったと思えば……クソッ、失敗した……!」

 机に力なく突っ伏した背中を、直が慰めて叩く。

 ああ、もう、何もやる気が起きない……。

「兄ちゃんには言えない」

「……そうだねえ」

 思えば、ここであの2人に会った事が運のツキだったのか。

「はあ。やっぱり面倒臭い事件だった。でも、まあ、しかたない。せいぜい配当に期待しよう」

 どちらからともなく笑い出し、ベンチャー企業が上手く行く事を祈ったのだった。










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