第277話 心霊特番(2)廃村の墓場
番組は、心霊スポットをバスで巡ってそれを録画し、後日、そのメンバーに別のゲストも加えてスタジオでそれを見る、という形をとる。
心霊スポット巡りに行くのは、美里様、グラビアアイドルのえりなさん、新人お笑いコンビのミトングローブ左手右手、タレントの高田コージさんの5人だ。えりなさんとミトングローブ左手右手はにぎやかし兼リアクション要員、美里様は醒めた反応の否定派として、高田さんはまとめ役といったところなのだろう。が、ここに美里様のこのところの心霊体験がどうなるかや、女王様である美里様が本当に怖かったら泣くのか、などが期待されているらしい。
この5人と僕と直、カメラマンで1台のバスに乗り、他のスタッフはもう1台のバスに乗るという。
テレビ局でまずは顔合わせをした。
皆意外と気さくで喋り易かったが、やはり美里様は、手強い。コメントは短く、笑顔は冷笑。カメラが回っていようとなかろうと、女王様だ。
まず最初から、えりなさんにかみついていた。衣装の色がかぶっていたので、変えてこい、というのだ。
「そういうものかねえ」
呟く直に、コソッと言う。
「確かに、よく似た知らない人がいたら見分けが付きにくいから、色を変えてくれたら親切だな」
「戦隊ヒーローの理論だねえ」
聞こえたのか、高田さんが吹き出していた。
「ゴメン。いや、特に女の人は良くある話なんだよ。比較されやすいし、目立たなくなるしね。相手の方が顔映りが良かったら最悪だし。それでまあ、後輩とか、売れてない方とかが変更するんだよ。大女優なんかこだわるよ」
「へえ。大変ですねえ」
見分けじゃなかった。
ようやくえりなさんが戻って来ると、バスに分乗して、出発となる。
出発で、もう既に疲れた。
バスの中で、次に向かう心霊スポットの説明を高田さんがし、ミトングローブ左手右手とえりなさんが震えあがり、美里様が冷笑する。どうも、その流れらしい。
「美里様も露骨だが、えりなさんも露骨だな」
「典型的な、媚びるタイプだもんねえ」
「良し。兄ちゃんの言ってた最低1つはいい点を見つけるっていうの、これにしよう。媚びない」
「怜も、媚びるタイプがとことん嫌いだからねえ」
「直は?」
「基本だめだねえ。
ボクは美里様の女王様然としたところ、そう嫌いでもないかな」
「ええー」
「ツンデレとか……ああ、怜は嫌いだったねえ」
「うん。だめだな。どこがいいのかわからない」
また、高田さんに笑われた。小声で話していたが、すぐ後ろの席で聞こえたらしい。
殺人犯に全滅させられた村という触れ込みの廃村に行って一周し、朽ち果てた墓の並ぶ墓地を歩く。
「たかが墓地でしょ。骨よ」
美里様が言い、えりなさんが
「ゾンビみたいに襲わない?怖あい」
と大げさにビクビクする。
「大丈夫ですか」
確認してくる右手――いや左手?わからないが、彼に、
「大丈夫です。ゾンビが起き上がって襲って来るとかはないですよ。土葬されて時間も経ってるので、もう肉も分解されててついてません。よくてスケルトンというやつですね」
と言ったら、皆数秒間固まってから、バスに向かって走り出した。
「え?何で?ゾンビはいないですよ?」
なぜか、プロデューサーに満面の笑みで褒められた。
バスの前で、メイク係にメイク直しをさせる美里様に近寄る。
「何よ」
その途端、手鏡がピシリと割れた。
同時に、気配を捕まえる。
「誰ですか。目的は何ですか」
ニクイ ソノオンナ
ブスッテイッタ
見えるようにすると、美里様が頷いた。
「ああ、あんた。名前は忘れたけど。似合わない化粧して、売れなくてどんどんばかな仕事して、みっともない事はやめろって言ったのに枕営業して、自殺したのよね」
ミットモナクトモ ヒッシダッタ
ジミナカオハ アンタニワカラナイ
「ばかね。似合う化粧しないと意味ないでしょう。横並びの同じ顔目指してどうするのよ」
「ああ。言葉が足りなくて誤解されたのか」
「足りない?考えなさいよ、一から十まで解説してもらってたらばかになるわよ」
「……そういうキャラなんだねえ」
ソンナ
「そういうわけで、悪気はなかったんですよ。あなたも、恨むなんて事はやめて、もう逝きましょう」
霊は泣いていたが、やがて、頷いた。
それに浄力を当てると、静かに成仏して行った。
「人騒がせね。鏡の件は彼女ね」
「本当はアドバイスしたつもりだったんですね」
「ち、違うわよ。ばかじゃないの。何でライバルにアドバイスするのよ。フン。おめでたい頭ね」
美里様はツンとして、バスに乗り込んで行った。
「いいとこあるなあ」
「まあ、わからないけどねえ、まだ」
「ああ。それに、誤解にせよ、恨んでいる人は多そうだしな」
まだ他に血の手形とかもあるし、面倒臭い性格に違いはない。
「とにかく、1件は片付いたな」
僕達も、バスに乗り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます