第274話 背中(3)不審
パソコンを使って、霊の男の写真が無いか調べる。ブツブツと言っていた内、「娘は破談になったのに」「俺を使い捨てて」「蒼園会から守ってくれなかった」というのは聞こえたので、それがヒントになるだろう。
そう時間をかけずに、司はそれらしい情報を見付け出した。秋に、大手建設会社に勤める田代という男が横領の発覚に絶望して縊死していた。この田代が、霊の男だった。家族は娘が1人で、事件後、婚約が破談になっているようだ。横領した金額は8千万円。
蒼園会と使い捨てについてがわからない。そして、やはりこの事件と自分のつながりがわからない。
司は、担当した人間に訊こうと思った。
と、ヒョイとパソコンを覗き込んだ課長が、「ああ」と頷いた。
「その事件か。娘さん、気の毒にな」
「8千万も、何に使ったのでしょうか」
「それが、未だによくわからないんだよ。一応愛人を名乗る女は出て、旅行や食事、賭け事なんかに使ったと言うんだが、どうも、それらしくなくてな。でも、上からも終了と言われたし、一応田代が横領したのは事実だし、捜査は終了したんだったな」
課長は軽く言って、デスクに戻って行った。
おかしいと、勘が告げていた。
「どうしてまたその事件を」
「襲って来た霊がこの田代でした。しかし、面識もないし、どうも心当たりも無く」
「ええっ。それは、気になるよなあ」
「この事件の端緒は」
「それが、御崎君の前任の前泊君なんだよ。田代の勤め先の重役と面識があって、どうも横領されてるらしいって相談されたらしい。それで、調査を勧めた矢先に、それを察した田代が自殺だ。
そういう経緯があったから、その事件も覚えてたんだよ」
「そうでしたか」
胡散臭さが、増すばかりだった。
僕は、冴子姉に追及されていた。念の為のお守りを受け取ってはくれたものの、隠し事があるだろうと追及されて、まあ、兄を狙う霊がいるようだとは白状した。それで、とばっちりの可能性があると言って、学校に遅刻すると言って逃げ出した。
「どうしてわかったんだろう」
直は即、
「野生の勘?冴子姉は、そういうの働きそうだしねえ」
と言う。
わからなくもない。
「とにかく、今度出たら捕まえて話を聞こう。どうも、変だからな」
「ああ。使い捨てに、蒼園会。蒼園会って、暴力団だろ、老舗の」
「そう。どうも気になる」
「じゃあ、できるだけ生け捕り――じゃないねえ。ええと、まあ、そういう方向だねえ」
「うん、頼むな」
「人違いで恨まれてたりしてねえ」
「……」
「……」
あり得る。
僕は、人違いなら、本人に一度は合わせて怖がらせてからから祓おうと決めた。
そして、札があるから大丈夫。学校に行きなさい、と言って兄が譲らなかったので、放課後、兄の所へダッシュしようとした僕と直だったが、唖然とした。
「冴子姉」
「何で」
得意気に、胸を張って冴子姉が校舎前で待ち構えていたのだ。
「ごまかされないわよ。行くんでしょ。おあつらえ向きにお弁当まであったから、張り込みも楽だったわよ」
「クッ、お弁当が裏目に出たか」
「怜、仕方ないよう。女の勘に勝てるわけないよう」
危ない目に遭わせたくないし、心配させたくないが、仕方がない。
「行くか」
3人で、警察庁に向かう事にした。
「僕と直は正式に陰陽課から調査とガードを依頼されてるから入れるけど、冴子姉は入れないよ」
「……エントランスで待つわ」
意見は変わらないらしい。
受付でバッジと身分証明書を見せて徳川さんの名前を出すと、話は通っていたのですぐに入館証が手渡された。
「じゃあ、冴子姉」
言いかけた時、ゾクリと、霊の気配がした。
「来た、やつだ。刑事局ってどこだ!?兄ちゃんは今――ええい、霊のいるとこだな!」
直と、人をかきわける勢いで走った。
クソッ、兄ちゃんに何かあったら、霊のやつ、殺す!――いや、死んでるな。とにかく、許さん!
体育の授業以上の真剣さで、とにかく僕達は走った。ますます強くなる、憎悪の元へ。
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