第273話 背中(2)怒りと決心
フライパンにバターを入れて溶かし、そこへいちょう切りのラ・フランスを入れて加熱。トロッとしたところで豆乳と粉チーズを入れ、塩、コショウをし、ゆでたパスタを入れて絡める。皿に盛りつけたあと、黒コショウを振って完成。別に生クリームを使わなくても、豆乳や牛乳で、あっさりと美味しい、ラ・フランスのクリームパスタだ。後は、サバ缶を千切りのキャベツ、人参、水菜、スライス玉ねぎの上に缶汁ごと乗せたサバサラダ、ゆでたまごや野菜を中に並べたミートローフ、コンソメスープ。
「美味い。切り口もきれいだな」
ミートローフを食べて、兄が満足そうに言う。
「私、パスタが気に入ったわ」
冴子姉は、パスタが好きらしい。
3人で夕食をとり、柚子シャーベットを食べてから片付け、冴子姉を送って行くのがいつもの流れなのだが、今日は迷った。霊の事を考えるとついて行きたい。でも、2人の時間も持たせたい。
散々迷ったが、直の札があるから大丈夫だろうと、僕は留守番に決めた。目でフォローするのも、覗きみたいで気が引けるのでやってない。
兄が帰り着くまでの、長く感じる事。
「ただいま」
「お帰り。何も無かった?」
兄は頷いて、
「すぐ横に看板が落ちて来たが、大丈夫だった」
と澄ました顔で言った。
「――!」
「その時初めて、犯人、の霊を見たよ。知らない男だったな。まあ、明日データベースで調べてみようと思う」
「兄ちゃん、呑気な……」
「怜と直君に任せてあるから、そこは心配していないぞ。直君に礼を言わないとな。
俺を狙って来ているのは明らかだからな。何か接点がある筈だ」
「わかったら言ってよ。勝手に対決とかしないで」
「わかった。霊に関しては、怜がプロだからな」
風呂場に行く兄を見ながら、僕は霊に対し、ますます怒りがこみ上げるのを感じる。
フッフッフッ。楽には逝かせん。
兄が就寝してから、僕は課題を終えると、周囲に探査の網を広げた。不審な霊はいないか。敵意を持つ霊はいないか。
残念ながら、それらしいのはいない。
そこで家を出て看板の落ちてきた辺りを調べると、駐車場や庁舎の階段で感じたものと同じ気配が残っていた。余程強く考えたのか、思念が残っている。
俺の娘は破談になったのに
俺を使い捨てて、自分は円満な交際か
何の事だろうか。ただ、冴子姉の存在が、より強い恨みを抱かせたのは間違いないらしい。
となると、冴子姉もターゲットにされる可能性がある。
僕は冴子姉のアパートに回り、取り敢えず結界を張っておいた。明日の早い内にお守りを渡しに来なければならないが。
でも、変に心配させるのもなあ。
迷った挙句、ミートローフサンドの弁当を届けるついでという態を取る事にした。ミートローフなら今日余っている事を知っているので、大丈夫だろう。
そう思って、近所の24時間スーパーで買い物をして、ミートローフサンドとお守りを準備した。サンドウィッチに、ラ・フランスのパイ。別の容器に生野菜サラダ。
が、翌朝、僕はまだまだ自分が甘かったと痛感する事となるのだった。
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