第259話 犬のおまわりさん(3)進展

 兄に紹介された知人だという警察署長は書類仕事をしていたが、すぐに刑事課に連絡して刑事を呼び、スマホで撮った写真を転送し、名刺を渡した。

「これで、付近の防犯カメラをあたれるだろう」

「はっ、すぐにとりかかります」

 そして彼が出て行くと、

「どうだった」

と訊く。

「犬はすごく吠えてましたね」

「うん。歩きたばこも歩きスマホもしてなかったのにねえ」

「吠え方も、普通じゃなかった。飛び掛かる寸前だったし」

「そうそう」

「どんな奴だった。完全な、個人的感想でいい」

「ホスト」

「チャラい」

「髪の毛、緑に染めるのを勧めて来た」

「ボクはパーマだよ」

「あんな高い個室の美容院って、おかしい」

「散髪如きにあれはないねえ」

 彼は僕達の個人的感想に笑いをこらえて聞いていたが、

「そうか、わかった。後はこっちで調べる。ありがとう」

と言った。

「ああ、そうだ。あの時亡くなった堺さんの孫が、うちの管内の交番に勤務していた」

「終わったら、犬と会わせてあげようか」

「そうだねえ。犬があれだけ制服警官を見て喜ぶのも、そのせいだったんだねえ」

 しんみりしながら、署長室を出て、歩道橋へ戻った。


 犬は僕達を見ると、ピンと耳を立てて見上げて来た。

「どこの誰かわかったよ。後は証拠だな」

「防犯カメラに写ってればいいのにねえ」

 付近を見廻してみる。映っている可能性があるのは店が数件だが、残っているかどうか。

 試しに、スマホで、この歩道橋を検索してみた。

「意外とあるねえ」

「大抵が事故の事だな……と、ん?」

 1件、動画があった。歩道橋の少し先にあるラーメン屋の前で、

「今から、ラーメン大食いにチャレンジします!腹、空かせて来ましたので、頑張ります!激辛劇盛り、食うぞお!」

と言って、自撮りしているものがある。それからラーメン屋へ入り、カウンター席に座るところで終わっていた。これはチャレンジ前編らしい。

 だが注目すべきは、その大食いチャレンジャーでもラーメン屋でもない。最初の入店前のカットで、背後に歩道橋が映っており、そこに、亡くなった堺さんと犬、ショウと名乗る男がいた事だ。

 階段を上がって行く堺さんと犬。歩きスマホのショウが歩道橋の上にいて、堺さんのいる階段を降りようと曲がって来る。次の瞬間、堺さんは跳ね飛ばされるように犬を巻き込んで階段を転げ落ち、棒立ちのショウは、向こう側の階段の方へ身を翻して消えた。

 それが、チャレンジャーの横、画面の端ギリギリに映っていた。

「これは!?」

「いけるんじゃないかねえ!」

 わん!

 僕は急いで、署長に電話をかけた。

 しばらくして、電話があった。ショウが、店から逃げた、と。

「行くぞ。

 なあ、お前も来るか?」

 ワン!!

「いう事を聞くんだよ」

 ワン!!

 僕と直と犬は、店に急いだ。







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