第251話 もういいかい(3)試練

 僕と直の前に来た2人は、不思議そうに首を傾けた。


     五月ちゃんだと思ったのに

     お兄さん達 だあれ


「御崎 怜といいます」

「町田 直ですよう」


     真島ミキです


     南 宇蘭です


「五月ちゃん達とは、もう遊べないんだ」


     どうしてえ?


「2人共、手を見て。透き通ってるね。どうしてだろう」

 2人は両手をしげしげと眺め、お互いの姿を見て、あ、という顔をした。


     何でなの お化け?


「まず、ミキちゃん。かくれんぼをしていて、何があったか覚えてるか。

 宇蘭ちゃん。ミキちゃんに見つかった時の事を、覚えてるか」

 2人は各々真剣に考えだした。


     ええっと 10まで数えたら急に胸が苦しくなったの

     それで地面に倒れて 息ができなくて 声も出なくて

     助けてって言えないで 暗くなって行ったの


     わたしは 寝てたらミキちゃんが来て

     みいつけたって


 2人はそう言って、しばらく黙って考え込んだ。


     死んだのかな わたし


     死んで お化けになっちゃったのかな


 2人は狼狽え始めた。

「落ち着いて。

 ミキちゃんも宇蘭ちゃんも、残念ながら死んでしまったんだけど、生まれ変わりとか、前世とか聞いた事はあるかな」


     あるよ

     図書室の本に書いてあった


「そう。死んだ人は、天国へ行って、生まれ変わらないといけないんだ。だから、今から逝こうか」


     怖くない?


     痛くない?


「大丈夫」


     ママとパパは?


「さよならしないとね」

 2人はショボンとした。

「でも、誰でも一度はやらなくちゃいけない、ああ、試練だからな。無事に乗り越えて安心させてやれ」


     安心する?


「ああ」


     寂しくない?


「寂しいよ。でも、それ以上に、がんばれって思える」


     わかった。試練を受ける


     わたしもやる


「そうか。じゃあ、行くぞ」

 軽く、浄力を当てる。すると、体がきらきらと光り始め、2人は互いの姿にキャッキャと笑って喜び始めた。そして、消えて行った。

「終わったな」

「そうだねえ」

 見送って、振り返る。

 親達が、2人の消えて行った先を見ていた。

「ミキちゃんと宇蘭ちゃん、きれいだったわねえ」

「フェアリーみたい」

「今度は、幸せに、ね」

 そして、各々我が子を振り返り、寝顔にそっと微笑みかけた。


 無事に済んだと報告書を書き、渡す。

「無事に済んで良かったよ。お疲れ様」

「本当に、斬らずに済んで良かったです」

 必要ならやるが、後味が悪そうだ。

「あの子達は、誰が死んで誰が無事か、もう、紙一重だったんだよねえ」

「たまたまあの時、ジャンケンで負けて鬼になったのがミキちゃんだっただけ。最初に見つかったのが宇蘭ちゃんだっただけだもんな」

「残酷といえば残酷な話だよ」

 徳川さんは短く嘆息した。

「まあ、なにはともあれ、ありがとう」

「いえ。今回小2なので心配だったんですが、聞き分けが良くて助かりました。面倒臭い事を言い出さなくて」

 真剣に言ったのだが、直と徳川さんは、プッと噴き出した。

「相変わらずだねえ」

「理論的に話し合いができるなら子供でもいいし、できないなら大人でも嫌だ」

 そう言ったら、更に大笑いされた。

 何故だ?

 わからないが、何となく、つられて笑いだしてしまった。まあ、いいか。とにかく、あの子達の魂に幸あれ。










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