第252話 紅鬼(1)封じともぐりの霊能者
地元の、いつも遊びに行く山であろうとも、遠足となったら特別だ。皆でお弁当を食べ、おやつを食べながら、木によじ登ったり、綺麗に紅葉した葉っぱを集めたり、はしゃぎまわっていた。地元小学校1年生の、秋の遠足である。
「大きい石の下に、幼虫はいるんだろ?」
「じゃあ、あれとか?」
加藤 充と川口ヒロは、幼虫探しに夢中になっていた。
ふと目に付いたのは、何かを祀っているとかいう石だった。いわれは何も覚えていないが、その下に、幼虫がいそうな気はしていた。
「動くかな」
「だめなんじゃないの、それに触ったら」
「ちょっと傾けて、下を見るだけだもん。大丈夫だよ、ヒロ」
結局2人がかりでその大きい石を傾け、ゴロンと横に転がした。
「いないなあ」
「いると思ったのにね。残念」
また2人で戻そうとしたのだが、重くて、思うように動かせない。結局、ズルズルと押して、どうにか元の場所に倒れたままではあったが戻す事に成功し、先生の集合の声に、その場を離れたのだった。
紅葉が進む秋の山の一部に、突然、枯れた部分ができたのは翌日だった。一夜にして何があったのかと、不審に思いながら地元のお年寄りが見に行って、それを見つけて、青くなった。
「た、大変だ。封印石が、封印が破れとる!」
そして大慌てで、知らせるために山を急いで降りて行ったのだった。
新幹線に並んで乗りながら、資料に目を通す。
「封印されてたのは、
「平安時代の話らしいねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
僕と直は、東北のとある地区に緊急依頼で向かっていた。山で木枯れが突然発生したので見に行ったら、鬼女を封印していた石が倒れていたのが見つかったそうだ。この時点ではまだ年寄りを中心に騒ぐだけだったのだが、木枯れが徐々に進み、動物の食い散らかされた死体が多数見つかるにつれて、皆がまずいと慌て始めたという。それで一旦は、地元で拝み屋をして来た家に持ち込んだのだが、解決できず、霊能師協会に電話する事となったのが昨日。僕と直に依頼の連絡が来、今日の朝、出発して来たのだ。
平安時代。貧乏貴族の娘が、さる貴公子の妻となる。ところが、この貴公子は次々に妻を娶り、次第に若くて新しい妻の所にばかり通うようになり、この女は忘れ去られ、打ち捨てられることになった。
悔しさ、憎さに身を焦がしたこの女は、若い女や子供を襲い、その内、その身を食べるようになってしまったという。そのせいで角の生えた鬼の姿と化し、衣は真っ赤に染まり、いつしか紅鬼と呼ばれる恐ろしい鬼女になってしまったそうだ。
その鬼女を陰陽師がこの地まで追い、封印したのが封印石で、石の下ではまだ鬼女が生きていると言われていたらしい。
「その石を、誰かが動かしたと」
「大した囲いとかも無いもんねえ」
「もっと分かり易く、囲いとかしとけばよかったのに」
「全くだねえ」
「それにしても、女の嫉妬か」
「いつの時代も、恐ろしいよねえ」
「でも、この時代の婚姻って、あやふやだよな。最初の三日は連続して通うものの、あとは通い婚で、いつの間にか、遠のいてたり、別の男が通い出してたり。と思えばひょっこりとまた通って来たり。
大らかというか……」
「浮気とか離婚とかいう線引きが分かり難いよねえ」
「まあ、自分の所に来なくなってよそにばかり、と聞いたら、腹は立つだろうけどな」
「鬼にもなるかあ」
はあ、と溜め息をつく。
溜め息の原因はもう一つある。最初に話を持ち込まれた、拝み屋の家だ。霊能師資格を取っていないまま、それに準ずる行為を行うのは犯罪だ。それで先代は、自身が高齢であることもあってやめたらしい。しかしその孫が納得しておらず、自分は霊能者だと言い張っているらしい。
これについては陰陽課が別個に動くそうだが、今はまだ現地におり、反感バリバリで待ち構えているだろうと言われた。
「ああ。面倒臭いな」
「嫌な予感しかしないねえ」
2人でもう一度、大きな溜め息をついた。
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