第250話 もういいかい(2)鬼

 一緒に遊んでいた子達の、残った4人に話を聞きに行ったのだが、宇蘭ちゃんのお葬式の後で、全員揃っていたので助かった。

「もしかして、そういうことなんですか。霊能師の方が調査にいらっしゃるという事は」

 1人が、恐る恐る訊く。

「その可能性はありますが、まだ何とも。もしそうだとしても、全力で守ります」

「怖いわ。ミキちゃんが、友達を連れに、でしょう」

「そうであったとしても、ミキちゃんも被害者なんです。突然の事に、理解が追い付いていないんでしょう。まだ小さいのに」

「ミキちゃんや親御さんを、責めないであげて欲しいんですねえ」

 親達は、慌てて「勿論」とか言いながら互いに視線を交わし合った。

「さて。この中で、事故の後、ミキちゃんの声を聞いた人はいますか」

 子供達は緊張して、親にべったり張り付いている。

 くそ、やり難い。

 直をチラリと見て、交代してくれと頼む。

「何でもいいんだよう。変な事とか無かったかねえ」

 子供達は互いに視線を交わし合い、やがて1人が、おずおずと口を開いた。

「昨日の晩、聞いた。もういいかーいって」

「どうしてすぐに言わなかったの!?」

 ヒステリックに母親がその子を揺さぶり、子供は泣き出し、父親が慌てて母親を宥める。

「落ち着いて。

 五月、その時のことをよく思い出して、全部話しなさい」

「うう、うん」

 五月と呼ばれたその子は、しゃくりあげながら涙を拭き、何とか喋り出した。

「昨日、もう寝ようと思って布団に入って、天井を見てたら段々眠くなってきたの。そしたら、ミキちゃんの声でもういいかーいって聞こえてきて、夢かな、と思って、そのまま寝ちゃったの。今言われて、思い出した」

 よその親達は、自分の子でなくてホッとしたような、次は自分の子かも知れないと怯えるような、色々な反応を示した。子供達は、あまりよくわかっていないようだ。せいぜい、友達が幽霊になって会いに来たのかな、というくらいなのだろう。

 しかし、宇蘭ちゃんの例を考えると、そう、のんびりとはしていられない。

「札をお渡ししますので、それを必ず、五月ちゃんに持たせて下さい。

 本当は念の為に、全員を結界の中に囲い込みたいところなんですが……」

 何せ、まだほとんど何も手口などもわかっていないし、札で見つからなかった場合に、他の子に目標を変えるなんて事も無いとは言えない。

「あの……」

 親達はひそひそと言葉を交わした後、中の1人が代表で口を開いた。

「それが必要ならそうします。安全には何も代えられませんので、どうかよろしくお願いします」

「助かります。では、取り敢えず今晩、全員で一ヶ所に集まっていてもらいます」

 キョトンとする子供達は、親の顔を見上げている。

「今晩はお泊り会をするから。家に帰って準備しましょう」

「やったーっ!」

 わけはわからないが、とにかく面白そうだと子供達は大喜びで、親達は、緊張した顔だ。

「どこがいいかねえ」

「あの結界ばりばりのセイフティハウスだと反応が分からなすぎるから、普通の所の方がいいな。協会の研修所でいいか」

「あそこならいい大きさだねえ」

 早速、手配に入った。


 個室と大部屋のある、元はどこかの私立高校の合宿所だったところを買い取ったもので、グラウンドもあれば、大浴場もあり、家庭科室みたいな広い調理室もある。

「おおおーっ」

 子供達は喜んで走り回り、皆でキャンプよろしくカレーを作って夕食にし、大浴場ではしゃぎ、いい感じに疲れ切ってぐっすりと眠り込んだ。

 全員を大部屋に集めており、周りには結界を張って姿を隠している。

 遊びに来たかのような子供達を初めは大人しくさせようとした親達だったが、敢えて、遊び疲れて寝るように仕向けた。友達が殺しに来るところなんて、見ないですむならその方がいい。

 親達は夜が更けて来るに従って、流石にそわそわとしだす。

「何があっても慌てないで、指示に従って下さい」

 親達は頷いて、各々、子供の寝顔を眺めた。

 と、気配が漂い出す。


     どこかなあ、五月ちゃん

     こっちかなあ


 親達が、体を固くする。

 結界の外に現れた子供の霊は、写真で見た、ミキちゃんだった。もう1人ついて歩くのは、宇蘭ちゃんだ。2人共、ふわふわ、ゆらゆらとしていて、向こうが透けている事以外、普通だ。特に悪意は感じない。

 まだ、かくれんぼの続きをしているつもりなのだろう。

 結界のせいで姿が見えず、2人は首を傾げていた。


     おかしいな

     この辺だと思ったのに


 そして、どこかへ去って行く。

 ホッと息を吐く。親達は取り敢えず子供が無事だった事に対してだが、僕は、2人が悪意に歪んでいない事にもホッとした。

「五月ちゃんの持ち物を何かお借りできませんか。それで、本人がそこにいると誤認させます」

「じゃあ、そこそこ馴染みのあるものがいいのかな。靴下、ハンカチ、お気に入りの髪留め」

「ああ、髪留めにしましょう」

 星の付いたファンシーなそれを借り、僕と直は結界を出た。

 途端にどこからともなく、2人が現れる。


     五月ちゃん みーっけ


 2人が、嬉しそうに笑った。











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