第242話 トンネル(1)14個目のライト
そのトンネルに午後10時に入ると、14個目のハロゲンライトの下に、男の幽霊が現れる。
その噂の真相を確かめるべく、夜のトンネルの前で、午後10時を待っていた。
「あと、5分か」
「見たって人は、多いみたいだねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
「それにしても、人通りが無いね。新しいトンネルの方が、広くてきれいで明るくて集落にも近いけど」
南雲 真。1つ年上の先輩で、父親は推理作家の南雲 豊氏、母親は不動産会社社長だ。おっとりとした感じのする人で、怪談は好きなのでオカルト研究会へ入ってみたらしいのだが、合わなかったから辞めたそうだ。
「あっちは車ですれ違いできるけど、こっちはギリギリ1台やからなあ」
郷田智史。いつも髪をキレイにセットし、モテたい、彼女が欲しいと言っている。実家は滋賀でホテルを経営しており、兄は経営面、智史は法律面からそれをサポートしつつ弁護士をしようと、法学部へ進学したらしい。
この4人で心霊研究会というサークルをやっていて、学生からの相談を格安で受けたりしている。今回は、噂を聞きつけた真先輩と智史が興味を示し、行きたいと言ったので、こうして来る事になったのである。
いかにも古そうなトンネルで、地下水か何かのシミが浮き、昼間でさえも暗い。まるで異次元への入り口のように、不気味にぽっかりと穴をあけている──そんな印象だ。
「時間や」
「よし、行こう」
真先輩と智史を前にして、足を踏み入れる。
足音が反響し、時々、ピチョーンと水の音がする。そして天井にできたシミが、顔に見えたりした。
その中をゆっくりと歩きながら、天井のライトを数えて進む。
「4……5……」
智史がブツブツと数え、真先輩はキョロキョロとしながら写真を撮っている。
不意に、智史の頭に水滴が垂れた。
「うわああああ!!」
飛び上がる智史とそれを嬉々として眺める真先輩に、
「ただの水だ」
と言うと、智史はホッとしつつも恥ずかしそうに、
「何や、脅かしよって」
と言い、ふと、我に返った。
「あれ?今何個やった?」
真先輩も、今の騒ぎで忘れたらしい。
「11個だな」
「あ、怜、数えてくれてたんか」
「いや、僕は数えてない」
「へ?」
「あそこに霊がいるから、あそこが14個目なんだねえ」
うすぼんやりとした人影が立っているのを、直が指さす。
「ギャアアアア!!」
「出たああああ!!」
智史と真先輩は叫んで飛び上がると、驚くスピードで僕と直の背中に回った。
霊は、香澄浩二、32歳、独身と名乗った。
「今、何時ですか」
必ず訊かれるという、質問だ。これにキチンと答えたら「急がないと」と言って消え、答えないと、そこに恨めし気に立っているという話と、出口まで追いかけて来るという話がある。
「お急ぎですか」
第3の答えを返してみた。
「ええ。父の介護、母だけじゃ大変だから、急いで帰らないといけないんです。でも仕事が遅くなっちゃって」
浩二さんは困ったように笑った。
「それは大変ですねえ。ヘルパーさんとかは?」
直が訊く。
「父も母も古い人ですから、どうにも嫌がって……」
「ああ、いてはるなあ。生活保護でも、サギまでやってもらったろういうやつもおるのに、お年寄りなんかで、恥ずかしいとか申し訳ないとか言うてガンとして受けへん人」
「ええ。まさにそれです。それで、具合が悪くなったのに近所に恥ずかしいからと救急車を呼ばずにタクシーを呼んで、そのせいで脳梗塞が手遅れになって、後遺症が残ってこうなったんです」
浩二さんも含めて全員で、思わず溜め息をついた。
「家はどちらですか」
「この先の集落ですよ」
「そうですか。
ああ、10時7分になりましたね」
「もうそんな」
浩二さんは、慌ててトンネルの向こう出口向かって歩き出し、出口で消えた。
「どうするんだい、怜」
「香澄家について、今どうなっているのか調べて、それから浄化します」
「霊の正体がわかったから、ここに出るようになった経緯とかも調べられるしねえ」
「何とかしたりたいなあ」
言いながら、僕達はトンネルを引き返した。
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