第239話 守る(1)雨の漏る家

 車は、ありふれた住宅地を目指していた。

「何度直しても雨漏りがする家、ねえ」

 御崎みさき れん、大学1年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。

「欠陥住宅とも考えられないねえ」

 町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。

「すっかり建て替えても雨漏りする、言うんやからなあ」

 郷田智史。いつも髪をキレイにセットし、モテたい、彼女が欲しいと言っている。実家は滋賀でホテルを経営しており、兄は経営面、智史は法律面からそれをサポートしつつ弁護士をしようと、法学部へ進学したらしい。

「母の会社で扱う事になって、調べれば、ねえ。土地に何か問題があるとしか思えないよ」

 南雲 真。1つ年上の先輩で、父親は推理作家の南雲 豊氏、母親は不動産会社社長だ。おっとりとした感じのする人で、怪談は好きなのでオカルト研究会へ入ってみたらしいのだが、合わなかったから辞めたそうだ。

 今日はこの真先輩のお母さんの依頼で、その家に調査に出かける事になったのだ。そうなると智史もついて来たがり、4人で行く事になったのである。

 因みに南雲氏も来たがったらしいが、打ち合わせがあってダメだったらしい。

「住民の記録は、戦前から残っているんですか。かなり残っているほうですね」

「その頃からずっと変わらずに住宅地だったのと、空襲の記憶を残す、という活動で調べた事があったそうなんだよ、地元のNPO団体が。

 ああ、その先かな」

 4人を乗せた車は、屋根にブルーシートを被せた一軒の古い昭和の民家に到着した。


 まず言える事は、一つ。

「いるな」

「いるねえ」

 他人に何かしようとしているわけではないようだ。必死な熱意のようなものを感じる。

「この建物は昭和45年に建てたもので、屋根に問題が無い事は大工さんが確認済みだけど、取り壊して今風のガレージ付きの2階建てにするらしいよ。電気自動車の充電ができるやつ」

「あ、ええな、それ。マンションとかやったら、電気自動車買うてもいまいち不便そうっちゅうか」

「何だったらどう?母に、サービスは口添えするよ」

「オレ、滋賀に帰るから」

 言いながら、庭に車を留めて、降りる。

 最近の7月にしては爽やかな感じの午後だが、強いて言えば、何かここは暑い気がした。

「直。暑くないか?」

「うん?そう言えばまあ。クーラーの効いた車から降りて、そう思うのかと思ったんだけどねえ」

「気のせいかな。太陽の熱というより、こう、火の熱さというか」

 何となく空を見上げる。

「あ」

「え?」

 つられて、全員空を見た。青空に白い雲。そこに立ち上る黒い煙。

「そこの人、何やってるの!早く壕に入りなさい!」

 そちらに目をやると、もんぺにシャツの女性が小さな子供の手を掴んで、庭の隅を指さしていた。

「車が無い!」

「周りを見てみい!」

 家は古い木造の平屋建てに変わっており、ガラスには黒いテープが貼られている。

「え、戦時中?」

「早くしないと、グラマンが来る!」

「グ、グラマン?ああ、はい、はい」

 僕達はそそくさと、促されるままに、防空壕へ入ったのだった。









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