第238話 ねたむ(4)ドラゴン・タニー

 事件解決から、半月ばかりが過ぎた。

 あのあと生霊の主である谷 竜二さんの家に行くと、谷さんは自室で体が痺れてもがいていた。生霊を飛ばしていた間の事は夢だと思っていたそうだが、実際に体が痺れ、夢の中で見たと思っていた僕と直が家に来た事で自分のした事がわかり、しっかりと反省していた。

 壊したノートパソコンは、弁償すると言っていた。

 根は悪い人でも無さそうだが、就職浪人で、親からも何とかしろと言われ続けて軽いノイローゼになっており、起死回生にと趣味の小説を持ち込んでみたが上手く行かず、解離状態になっていたらしい。それが、生霊を飛ばすきっかけになった事は間違いない。

 そしてなぜか今はプロレスに入門し、『ドラゴン・タニー』として、意外と上手くやっているようだ。

 風間さんはあの後、無事に授賞式を終え、兄に送られて戻って来ると、自宅に帰って行った。

 そして南雲先輩は、

「父が自慢気に言うんだ。見たぞって。見逃したよう、悔しいよう。

 あ、父が、また遊びに来てくれって。ぼくがいなくても全然構わないからって。ぼくの友人なのにね。何か釈然としないなあ。そうだ。ぼくだけ先輩って仲間外れで嫌だよ。ぼくも真で頼むよ」

と愚痴なのか要求なのかを言い、智史は智史で、

「ああ、生霊なんてレアなやつを見逃したぁ!次は絶対に見せてな、な、な!」

と迫って来た。

 そして風間さんはちょくちょくうちに来るし、兄とずいぶん、仲良くなった。他愛もない口喧嘩をしては、すぐに仲直りをしている。

「付き合ってるんじゃないのかねえ」

「そうしろと言いたいよ。休みで出かけようとするたびに2人共僕も誘って来るから、もう、2人で行けって言ってるんだけどね。雰囲気だけは、お父さんとお母さんなんだよ。さっさと結婚でもすればいいのに」

 直はお弁当を噴き出しかけた。

「そんな事言うて、寂しいんちゃうん?」

「風間さんは気持ちいい人だし、兄とも合ってそうだし、姉さんでなかったら誰ってくらい、我が家にしっくりなじんでるしな。いや、もう本当に、アパート解約したらって勧めたい。勿体ないだろうって」

 美雪さんの時とは違う。

「じゃあさ、いっそ、風間さん呼びをやめてみたらどう?」

「その気にさせる作戦やな」

「冴子姐さんだねえ」

 あ、何か、違う姉さんのイメージが……。

「そうだ。多田さんが言ってたよ。あれから、霊能師を書きたいって言う作家が続出してるんだって。取り敢えず夏のフェアとして、今年のホラーフェアは霊能師祭りになりそうだって」

「……何だ、それ」

「……偏ってるねえ」

「それで、写真集をインタビュー込みでお願いしたいから、協会に申し込めばいいのかなって」

「面倒臭い。お断りします」

 皆、少しづつ変化していく。

 ああ、そう言えばもう少ししたら暑くなるな。夏物を出して、合いのスーツをクリーニングに出さないと。

 ああ、面倒臭い。



 







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