第232話 幸せのありか(2)子が恋しい母

 母親が務めていたのはスーパーとパチンコ屋で、男と知り合ったのはパチンコ屋らしい。最初は、一緒に食事をしたり、公園で缶コーヒーを飲んだりしていただけだったのが、ホテルに行くようになり、男の部屋から通うようになり、そのうち、姿が見えなくなったと思ったら、山中で遺体で見付かったと新聞で報じられたらしい。

 死因は違法薬物の過剰摂取による中毒死。男に売り飛ばされた先で薬物を打たれ、亡くなったので慌てて捨てられたとかで、打った人物と遺体を遺棄した連中は既に逮捕されている。母親を売り飛ばした男については、そのままだ。

 遺体発見現場に行くと、母親がいた。薄いキャミソールの痩せた女で、美人と言えなくもない。


     帰りたい 帰りたい


 呟いて歩き出そうとするが、この場に繋ぎ止められていて、離れられない。

「相川さん」

 呼びかけてみたら、母親はぼんやりとした目を向けて来た。

「家に帰りたいんですか」


     帰りたい

     子供が 幸子が待ってるから

     久しぶりに優しくされて 私がばかだった


 さめざめと泣く。

「家に送ります。憑いて下さい」

 直の札に依り付かせ、アパートへ行った。

 午後7時。子供が現れる。


     幸子 ただいま


     お母さん おかえりなさい


 笑顔で、手を取り合う。


     ああ お母さんは幸子がいてくれるだけで幸せよ


     お母さん 大好き どこにも行かないで


 2人は一緒に笑い合いながら、キラキラと光って消えて行った。

「ああ。逝ったねえ」

「うん。母親として忙しい中で、もう1度女性として幸せになりたかったんだろうな」

「わからないでもないけど、それは無責任だねえ」

「そうだな。

 まあ、とにかく、無事に済んで良かった」

 宮脇さんの部屋に行って終了のサインと料金をもらい、アパートを出る。

 南雲先輩と智史も来たがったのだが、南雲先輩は実家に行く用事があるらしくて断念、智史はバイトがあるので断念した。

「あ、今日は晴を塾まで迎えに行くんだった」

「ああ。おじさん、出張だったっけ」

「そうなんだよねえ。帰りは遅いから心配してねえ」

「女の子だもんな。

 ああ、これは出しておくからいいよ、直」

「悪いねえ。じゃあ、ごめん。また明日ねえ」

「ああ。また。晴ちゃんによろしく」

 直はあたふたと、家に帰って行った。

 僕は協会へ向かうべく、反対方向へ向かった。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る