第230話 血族(5)珍しい体質
声をかけると、ずっと尾けてきていた誰かが、姿を現した。若い男が2人だ。
美雪さんは気付いていなかったらしいが、僕と直は気付いていて、ここへ誘い込んだ。
「どういう方ですか。あの人が、守らなければ、と言っていた人ですか」
彼らは視線を交わすと、片方が口を開いた。
「そう、言っていたのですか」
「霊になってですが」
「……我々は珍しい体質を持つ一族で、それを、知られるわけにはいかないんだ」
「ほう。それを聞いた僕達は口封じしますか」
「黙っていて欲しい。どうか、頼む」
「……体質で苦労するのは、わかります。僕は言いませんよ」
「ボクもだねえ」
「私も、秘密は守ります。
でも、そもそも、その体質って何ですか」
彼らは少し迷い、でも、結局口を開いた。
「きわめて不死に近く、ケガや病気、毒物からの回復力がけたはずれに高い、また、寿命が少々長いという体質です。過去に、知られて人体実験されたり、戦場へ送られたりしましたから、一族でひっそりと暮らしています。
あいつは日用品を買いに出かけた時に、誰かの見られては不都合なものを見てしまったらしくて、狙われた挙句に、この前とうとう殺されました。流石にあれでは、我々でも助からない。
それで、あの」
「ご遺体は病院ですが、このままでは氏名もわからず、行旅不明人として埋葬されますが」
「近く、伺います。それと、血液などは調べたのですか」
「はい。でも、何も変わった所はありませんでした。体から離れたら、そうなのかも知れませんね。だから、心配はありませんよ」
美雪さんの言葉に、彼らはホッと肩を落とし、頭を下げながら立ち去った。
「これで、どっちも片付きましたね」
「とにかく帰ろうかねえ」
電話で警察と協会に完了の連絡を入れ、美雪さんの荷物と残った食料品を持って僕の家へ移り、夕食を作る。
カレーチャーハンの上に、割ったら中からカレーが出て来るオムレツを乗せたカレーオムライス、サバ缶と生野菜のサラダ、果物タップリのフローズンヨーグルト、コンソメスープ。
フローズンヨーグルトは、8分立ての生クリームに砂糖とヨーグルトと果物を入れて冷凍庫に1時間程入れ、1度かき混ぜて、また冷凍庫に入れるだけの、簡単なデザートだ。
食パンは1枚残っていたので、明日の朝用に、卵と牛乳と砂糖と一緒に密閉袋に入れてある。後はフライパンで焼いたら、フレンチトーストだ。
「あの、美雪さん。またいつでも遊びに来てください。兄も、休みの日は暇だし。
あ、映画!この前テレビで映画のCM見て、映画かあ、とか言ってました!」
「?そう?」
直は、何とも言えない顔をしている。
「それから、僕はまだアルコールは飲めないので、美雪さんが一緒に呑んだらいいと思います」
「怜君?」
「はい、何か?あ、ビール、ワイン、焼酎、ウイスキー、その辺りは嫌いじゃなさそうですよ」
「そ、そうなの?」
美雪さんは直を見、直は唐突に、
「司さんを待つ間、DVDでも見ようかねえ」
と言い出した。
それで、亡くなった両親が好きだった『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を見ていたら兄が帰って来たので、夕食になった。
デザートも食べ、フレンチトーストの準備までした食パンも持たせた美雪さんを兄が車で送って行く。
はあ、やれやれ。
「ねえ、怜」
「ん、何――あ」
「え?」
「珍しい体質って、霊になってもそういう感じだったよな」
「うん、そうだねえ。あ」
「取り込んじゃったよ」
「……まあ、霊になってたから、どこまでその体質が残ってるかわからないし、ねえ」
「そうだよな。うん。まあ、ケガに強くて風邪もひきにくいくらいなら、別にいいし。なあ」
「そうだねえ」
「……」
段々、不安になって来た。
そのうちに兄が帰って来て、捕まえた男の事を聞いた。
某国の大使館員とやり取りをしているところをあの人に偶然見られ、口封じに殺したそうだ。そして今度はその現場を美雪さんに見られたと思い、狙っていたそうだ。
今後はそれを弱みにされ、外事課に、エスとして利用されるらしい。
「ご愁傷様だねえ」
それより、例の一族が無事にいられるといい。あれほどあの人が、死んでも守ろうとした血族だからな。
「明日も学校だねえ。そろそろ帰るよう」
「うん、また明日。お休み」
「お休みぃ」
直が帰って行く。
「お疲れ様。色々と助かったよ」
「いや、れっきとした仕事だしね。兄ちゃんこそ、お疲れ様。お風呂湧いてるよ」
「ああ、入って来ようかな」
はあ、面倒臭い事件だったな。
兄が入浴に立つと、僕は大きく伸びをした。
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