第229話 血族(4)使命
亡くなった被害者の血液、細胞から、これと言って特別変わったものは見つからなかったそうだ。それで美雪さんは、やっぱり気のせいだったのかも、と言っている。
だが、僕と直の見解は違う。霊の腕が瞬時に治癒した事と言い、霊が細胞を抹消しようと言っていた事と言い、何かあると思っている。
ただ、それをどうこうしようとは思わない。美雪さんを襲わなければそれでいいのだ。
「知られるわけにはいかない。細胞を始末しなければ。
目の前で細胞を焼却したら気が済むかな」
「次に出てきたらそう言ってみる?」
「美雪さんもそれでいいならね」
今美雪さんは仕事中で、僕と直は、部屋の前にいる。
と、茉莉さんが歩いて来た。何か、睨まれているような気がする。
「ねえ。御崎君の弟の怜君ってどっち?」
「僕ですけど」
「ふうん」
ジロジロと見て来て、居心地が悪い。
「顔色一つ変えないのね。図太いの?」
「……表情に出難い質なので」
「失礼なんですかねえ、おばさんは」
直、大分怒っているな。
茉莉さんはムッとしたように僕達を見て、腕組みをした。
「ちょっと遠慮しなさいよ。御崎君と美雪に」
「仕事なので、離れるわけにいかないんですが」
「チッ」
茉莉さんは舌打ちした。
「大体、御崎君が結婚できないのはあんたのせいでしょ。それで私だって、学生時代に、3回も振られたんだから」
「3回なら本当に気に入られなくて振られたんだと思うねえ。それに司さんは、怜のせいで結婚しないんじゃなくて、結婚したい人がいないからしないだけだと思うけどねえ」
「ちょっと君は黙ってて」
「そういうわけにはいかないねえ。怜と司さんを侮辱されたんだからねえ」
僕達は、睨み合った。
「お待たせえ。
あら。どうしたの?茉莉まで」
廊下に出て来た美雪さんは、僕達3人に目を丸くした。
「何でもないわ。
美雪。こんなチャンスは無いのよ。ものにしなさい」
「ええ!?」
言うだけ言って、茉莉さんはスタスタと歩き去った。
「……何か、ごめんなさいね。自分が焦ってるものだから、他人までそうだと決めつけちゃってるのね」
「いえ……」
「……帰りましょうかねえ」
僕達は、歩き出した。
「あの、茉莉さん、兄に3回振られたって言ってたんですが」
「ああ、聞いたの?最初は『性格が合わないと思うから』ですって。それで、試しに付き合ってみるべきだろうって言ったら、『明らかに無理だと確信している』だったと思うわ。で、やってみなくちゃわからないし、自分が合わせるって言ったら、『今の言動をほとんど全部変える事になるし、そこまでして付き合う意味がわからない。そのままの自分に合う人を探すべきだ』って言われたとか」
「……人のせいにする余地はないねえ。単に徹底的に振られただけだねえ」
ボソッと直が言う。僕もそう思う。
「え、何?」
「いえ、何でも無いですよう」
直は笑って、3人で家路についた。
駅から公園を通って、マンションに向かう。
思った通り、霊が現れた。美雪さんは、直がカバーする。
「聞いて下さい」
シラレテハイケナイ
「何も見つかりませんでした。だから、固執する必要はありませんよ」
シラレテハイケナイ
マモラナケレバ
こちらの言葉は耳に入らないのか、問答無用で飛び掛かって来る。
斬ってもすぐに再生する。一気に全体を消すしかないかとも思うが、この調子では、浄力を浴びながらも再生し続けて、飛び掛かって来そうだ。こんなの、他にもいるんだろうか。
「あなたが何を隠したがって、何を守りたがっているのかわかりませんが、僕達はそれを邪魔する気は全くありません」
言うが、聞こえていない。渾身の勢いで突っ込んで来る。
仕方ない。
「直」
「はいよ」
霊を右手から取り込む僕ごと、念の為に札で囲う。霊はしばらく暴れていたが、次第に内向きの浄力で、消えて行った。
「はああ。終わった」
結界から出て、溜め息をつく。
「いや、まだかな。隠れてる人、いますよね」
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