第225話 サイン(3)心霊研究部、発足

 南雲先輩の家で、エスプレッソと桃のパイとでおやつをして、待っていた。

 南雲先輩、僕、直、智史だ。

「新聞かあ。家におった頃はともかく、今は忙しくて読まへんなあ。せいぜい、テレビ欄と天気予報、社会面や」

「智史はバイトも家事もだからねえ」

「家事がな、厄介やねん。やった事なかったから、時間がかかってしょうない」

「ははは。そのうち慣れるよ、1人暮らししてたら、自然に」

 南雲先輩は笑う。

「南雲先輩は、家、どちらなんですか」

「鎌倉だよ。まあ、通学が便利な、学校付近が良くてね」

 言っているうちに、6時になる。

 ピーンポーン。

「来たね」

「南雲先輩、お願いします」

「うん」

「オレもドキドキしてくるわ」

 4人で玄関に行く。

 ドアを開けると、里中さんがいた。

「私、聖東新聞の者ですが、新聞はお決まりでしょうか」

 弱気そうな顔で、訊いて来る。

「新聞ね。せっかくなんで、試しにとってみようかな」

「ありがとうございます!」

 パアッと笑顔になる。

「あ、それで、ついでと言っちゃなんだけど、後輩達も試そうかと言ってるんだけど」

 南雲先輩の後ろから、顔を覗かせる。

「隣の町田ですう」

「その隣の御崎です」

「そのまた隣の郷田ですう」

 里中さんは満面の笑みを浮かべ、

「ありがとうございます!」

と頭を下げる。

 ちょっと、心が痛む。

「ここにサインをお願いします」

「はい」

 順番に、名前、住所を記入して、返す。

「ありがとうございます。では」

 里中さんは笑いながら契約書を両手でしっかりと持ち、キラキラと光り、形を失って消えて行った。

「ああ。逝ったねえ」

「サインしたからこれで何かあるとは思えませんが、もし何かあったら、遠慮なくいつでもすぐに言って下さい」

「はい。

 でも、良かったね。サイン4つが心残りだったのか」

 部屋へ戻って、しみじみと南雲先輩が言った。

「サインで済んで良かったやん。いや、こっちも本当に契約するわけやないし、こんな協力やったらいつでもええで」

「それで思ったんだけど、サークルの勧誘除けに、サークル作っちゃえばいいんじゃないかな、本当に」

 南雲先輩が言い出す。

「そうですよねえ。いや、話はしてたんですけど、何にしたらいいか迷っちゃってねえ」

「もうあるサークルやったらアカンし、あんまり珍しいても、人が来るかも知れんし」

「ありとあらゆるサークルがあるからねえ」

 しばし4人で考え込む。

「やっぱり、心霊相談会とか、心霊研究会じゃないかな。それで、合いそうな人だけを受け入れたらいいんじゃないかな」

 南雲先輩が言う。

「例えば、霊絡みの相談に向き合える人、とか?なるほどなあ」

「怜、それで行くかねえ?」

「そうだな。まあ、仕事の相談を受けるのにも、部屋が決まってればやりやすいしな」

「お、受けるんか」

「高校の時を考えれば、まあ、そうなる」

 直も頷いている。

「決まりやな。

 南雲先輩も入ってくれはるんでしょ?」

「え、ぼく?いいの?」

「代表、して下さい」

 南雲先輩は、何だか嬉しそうに笑った。









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