第214話 ヨルムンガンド(2)トンネル崩落
山道を走るのにも慣れ、交代しながら進んで行く。
流石は行楽シーズンで、車は多く、渋滞とまではいかないが、自転車より少し早いくらいのスピードだ。
「この先のトンネルを抜けたら、展望台まで20キロくらいだって」
「じゃあ、着いたら休憩しようかねえ」
「桜カップケーキとチーズタルトと塩ラスクといちご大福作って来たけど」
「おおっ、スゲー!」
「桜?桜の花が乗ってるの?楽しみだよ!」
ゆっくりとトンネルに入って行く。
と、急に霊の気配が膨れ上がった。
「何か来る」
直も、周りを警戒する。
そして、すぐにそれは起こった。トンネルの出口と入り口が同時に大音響と共に崩れ落ち、もうもうと土煙が立ち込める。それに、ブレーキ音と車のぶつかる音が重なった。
ややあって、車からそろそろと降りてみる。
「閉じ込められてるな」
悲鳴と怒号と鳴き声が、飛び交い始めていた。
「地震?」
「速報は入らなかったけど……」
「電波が通じてないぞ!?」
「非常口が塞がれてる!」
誰もが、状況がつかめずに不安を感じていた。
「とにかく、けが人が出ていないか見て回ろう。頼めるか」
「おう!」
「わかったよ」
智史とシエルは前に向かって歩いて行き、僕と直は後ろに向かって歩いて行く。
「怜」
「ああ。パスを通して兄ちゃんに伝えた。知らせてくれって。
霊の気配がしたけど」
「何がしたい霊かねえ」
「閉じ込めた中にターゲットがいるのか、閉じ込める事が目的か、閉じ込めた人間を順番にどうにかしたいのか」
「何にせよ、車のスピードが出てなかったのは幸いだったねえ」
「玉突き事故で火災とか、冗談じゃないもんな」
小声でひそひそと交わしながら、けが人がいないか端まで歩いて行き、目を設置しておいた。
そう長いトンネルではなく、車もそう多くはない。閉じ込められた人数も、60名程度だ。車をぶつけた人もやはりいたが、スピードが出ていなかったせいで、けが人はいなかった。
「渋滞がありがたいって、初めて思たわ」
智史が明るく笑うと、つられるように数人が頬を緩めた。
「これからどうなるんだろ」
「外部にこの事は知られていますから、このまま救助を待てばいいでしょう。
これ以上の崩落はないとは思いたいですが、この辺りが1番何ともなさそうですから、ここに固まっていた方がいいかと思います。
申し遅れました。霊能師協会の者です。何かあった時は結界なりを使いますので、御協力下さい」
言うと、まあそれならという感じで、全員が中央付近に集まる。
「お腹空いた」
子供が言い出す。
「ガマンしなさい」
「お腹空いたの!」
「パパ、ジュース」
子供が言い出し、親がオロオロと気を使う。
カバンを座席から出して、開ける。
「直、智史。頼む」
すぐに、2人は察する。
「お。おやつがあるやん。怜お手製のやつやな。美味そう」
「お腹空いた人!」
はあーい、はあーいと子供達が手を上げて寄って来る。
「他の方も、良かったらどうぞ」
「ジュースは無くて、御茶とコーヒーだよ」
シエルが言うと、他にも、
「お茶と水ならあります」
「紅茶ですけど」
などと声が上がる。
午前10時。糖分補給には良い時間帯だ。
「ちょっと見て来る」
直に言い置いて、前の方へ行く。
小さな雑霊が1体いた。これが崩落を引き起こしたとは思えない。だが、人間を襲う気だけはあるらしい。
軽く祓っておいて、目を設置しておく。
トンネルで何かがあった時の為の非常口は1つあるが、向こう側で崩落でもあるのか、ドアがびくともしない。
ここまで徹底的に出入口が無いとは。
何か、面倒臭い予感がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます