第213話 ヨルムンガンド(1)ドライブ

 暖かな日差しがそそぎ、楽器の音や会話する声が入り乱れている。その一角で、僕達は昼ご飯を食べようとしていた。

「いい天気だなあ」

 御崎みさき れん、大学1年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。

「気分はピクニックだねえ」

 町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。

「ああ、腹減ったあ」

 郷田智史ごうださとし。いつも髪をキレイにセットし、モテたい、彼女が欲しいと言っている。実家は滋賀でホテルを経営しており、兄は経営面、彼は法律面からそれをサポートしつつ弁護士をしようと、法学部へ進学したらしい。

「さあ、食べようか」

 シエル・ヨハンセン。穏やかで人当たりのいい、金髪碧眼のハンサムだ。留学生で、日本語は読むのも書くのも堪能だ。

 弁当箱の蓋をとる。ペンネペスカトーレ、チキンサラダ、りんごとさつま芋の包み揚げ、いんげんの胡麻和え、大豆ひじき煮、野菜と小がんもの炊き合わせ、青ジソしょうがごはん。

 包み揚げは、包む時にしっかりと周りを閉じる事が肝心だ。そしてチキンサラダは、裂いた蒸し鶏を生野菜の上に乗せただけだが、チキンの下味でドレッシングがいらないので、弁当向きだ。

「弁当は世界で広がっている日本文化のひとつで、フランスでは辞典にBENTOUが乗ってるし、キャラ弁も流行ってるけど、やっぱり日本の弁当には敵わないね。わざわざ作り込まなくとも、日本の弁当はきれいだ」

「しかも、安い。特に最近のスーパーの弁当。採算取れてんのか、思うわ」

 シエルの言葉に智史は返し、スーパーで買って来た弁当に箸を入れる。

「智史は自炊だろ?」

 訊くと、智史は唐揚げをモグモグとやりながら、

「ん、まあな。主に金銭的なアレでなあ。せやけど、買った方が安いんちゃうか、思うわ」

「宅配の体に安心シリーズも結構安いよね。カロリー制限とか塩分制限とか色々あって、レンジでチンするだけの手軽さ。日本は弁当大国だと、本当に思うよ」

「まあ、弁当の歴史は凄いもんねえ。根付いてるんだよねえ、生活に」

 話しながら食べていると、上級生が寄って来る。

「食事中にごめん。演劇サークルなんだけど、アクションができる人を探してて」

「ああ、すみません。ちょっと」

「料理研究部なんだけど」

「あ……サークル活動には興味がないので」

 すごすごと帰って行く。

「よう来んなあ」

「面倒臭いからサークルに入る気は無いって言ってるのにな」

 サークルの勧誘が多くて、それをずっと断り続けているのだ。

「ん?ニュース速報や。またテロやて。自爆テロ」

 スマホに入って来たニュース速報に、智史が気付く。

「何か頻繁すぎて、初め程驚かなくなってきたな。恐ろしい事に」

「そうだねえ。まあ、まだ日本ではないから、日本で起きたら流石に皆大騒ぎだろうねえ」

「宗教に命かけるいうんが、ピンと来んわ」

「日本人の宗教観は、大らかだからねえ」

 シエルは苦笑して、話題を変えた。

「それより、気候もいいし、ドライブにでも行かないか。テレビで見た、山全体がピンク色になるのを見てみたいよ」

「山桜か。ええなあ。免許も取った事やしな」

「行くか」

「いいねえ」

 ニュースの事はコロッと忘れて、ドライブの予定を立て始めたのだった。


 当日は晴天で、レンタカーを借り、意気揚々と出発した。

 が、山中で見たものは、山桜ではなく、霊の起こしたトンネル崩落だった。











 



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