第211話 わたしをみて(3)サークルの闇
これだけ人がいると、直の情報収集は早かった。
「ちょっと行って来るねえ」
と言って席を立つと、いくらも経たないうちに帰って来る。
僕にはできない特殊能力だ。
まるで相手にされずに撃沈した智史は、食事に徹する気らしい。モリモリと旺盛な食欲を見せている。
シエルは、デコイの役割をわかっていて引き受けてくれているらしく、
「後で教えてもらうよ」
と、小声で釘を刺された。
「あっちのサークルは学内でもナンパサークルとか呼ばれているらしくて、オカルト研究とは名ばかりで、心霊スポット巡りとか言って世界規模で旅行して、パーティーして、ただ遊んでいるだけらしいねえ。当然会費はバカ高くて、学内でも有名らしい。
会長の清水さんは女関係も派手で、常に女子学生が、取り合いをしてるとか。怖いよねえ。
去年女子学生の1人が、会費の為にホステスのバイトをして、過労と衰弱で亡くなったとかいう噂もあるんだって」
「まさか、その女子学生か」
「この子だよう」
スマホに出た写真には、霊と同じ人物が写っていた。
「決まりだな」
ヒソヒソとやっていると、ようやく女子をあちらこちらに置いて来たシエルが戻って来る。
「何の悪だくみかな」
「シエル。人聞きが悪いねえ」
「あ、このモテ男め」
4人がけのテーブルの空いた椅子に座りながら、シエルはニコニコとして言った。
「で、何だって」
「ああ……向こうは凄いナンパサークルだって話だねえ」
「ああ。まあ、そうみたいやね」
智史はお腹一杯になったのか、椅子にもたれた。
「顔と肩書で獲物かそうでないか決めとる女も女やし、まあ、似合いのグループちゃう」
「智史はいい奴だからね。もっといい子が似合いだよ」
「おおきに、シエル!シエルが女の子やったらなあ。惚れとるわ」
「ええー、それはちょっと」
「ガクーッ」
2人でコントをしてじゃれ合って笑う。
と、離れたところでざわついた。もめるような声がする。
急いで、人垣を割って近付く。
「どうして。こんなにしてるのに。そんな可愛い振りが上手いだけの女の方がいいの?」
「はあ?何言ってるの。怖あい」
疲れた感じの血色の悪い女子学生が、清水さんと、清水さんの腕にしがみつくいかにもかわいい女子学生と、対峙していた。
「鶴田君、何か勘違いしてないかな。
皆に迷惑だ。こういう事をするなら、もう、退会してもらう方がいいようだね」
清水さんが言うと、鶴田さんと呼ばれた女子学生は、バッグからごついナイフを出した。
「つ、鶴田――」
「あなたに言われるがままホステスのバイトして、お金を活動費の補填費用として渡して来たのに。あんなにも、ありがとう、君だけだよ、頼れるのは、って言ってくれたのに!」
ザワッと、人垣がひと回り大きくなる。そして、清水さんの背後の霊も、気配を濃くする。
「直」
「わかった」
直が徳川さんに電話をかけている間に、手近なスプーンを掴む。
「許さないわよ。よそ見は許さない。あなたが見ていいのは私だけ」
言って、真っすぐにナイフを構えて突っ込む。
スプーンで刃先を逸らし、背後に庇った清水さん達を突き飛ばすのが精一杯だった。
「退けぇ!!」
振りかぶってくる。完全に頭に血が上った素人の攻撃だ。難なく弾いて体を入れ替え、ナイフを叩き落して、相棒を探す。
が、探すまでもなく、直はそこにおり、札をペタリと鶴田さんに貼り付けた。
グニャリとした体を、シエルと智史が近付いて、抱える。
「全員下がって下さい」
今の一幕に触発されて、清水さんの後ろの霊が、実体化していた。
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