第200話 クリスマスプレゼント(4)将来

 もう自分にはこんな風な未来は訪れない、そう思ったら、たまらなくなった。

「はああ」

 適当に横道に入ったら、迷子になったようだ。いかがわしい店が並んでいる、補導間違いなしの場所だった。

 興味はあったが、1人で入る度胸も、あからさまに視線を向けてジックリと見る勇気もない。

 と、肩に手を置かれて、内心飛び上がった。

「何か」

 恐る恐る振り返ると、酔ったサラリーマンがギラギラとする目を値踏みするように自分に向けていた。

「いくら?」

「え?」

「いくらなの?2、3万?お小遣い」

「は?ええっと、1万円です……?」

「プッ。年の瀬セールじゃあるまいし。3万でいいかな。じゃ」

「え!?」

 何故か自分の小遣いの額を訊かれ、わけのわからない会話が進み、どういうわけか、サラリーマンに肩をガッシリと抱かれて目の前のホテルに連れ込まれそうになっている。

 そこでやっと、小遣いと言っても、自分の毎月の小遣いをリサーチされているわけではなかったと気付いた。

 見廻して見ても、助けてくれそうな人は見当たらない。

 まあ、いいか。どうせ後少し。これも経験。

 そう思った時、肩に乗せられていた腕がグイッと外された。

「何やってんだ、このばか娘が」

「怜先輩!」

「おじさんも、だめですよねえ。未成年者を買春だなんて」

「直先輩!」


 目をつけてあるので、追いつくのはわけがなかった。

「あのばか」

 いかにもなホテルに連れ込まれそうになっている加奈江さんに舌打ちをし、直と2人、急いで向かう。

 腕を肩から退けると、そのサラリーマンは狼狽したように辺りを見廻し、高校生2人だと知ると大きく出かかったが、

「気がたってるんですよね、こっちは」

と、軽い神威をぶつけた。

 途端に酔いも冷め、サラリーマンは走り去って行く。

 そして、加奈江さんに向き直る。

 加奈江さんはあからさまにホッとした顔をし、膝をガクガクさせながらも、文句をつけて来た。

「せっかくの思い出作りだったのに」

「面倒臭いやつだなあ」

 溜め息が出る。直は苦笑して肩を竦め、通りの向こうのホストクラブの客引きはニヤニヤしていた。

「何ですか、もう!

 いいです。代わりに、せ、先輩達が、思い出作りの相手をして下さい」

「……」

「……」

 客引きが面白そうに見ている。見世物じゃないってのに。

「ふうん」

「……なな何ですか?」

「いや。目ェつぶって」

 加奈江さんは素直につぶる。

 やっぱりばか娘だろ、こいつ。そう思いながら、拳骨をグリグリと頭に――。

「痛い痛い痛い!先輩痛い!」

「痛くしてるんだ、ばか娘!

 はあ。そういうのは、将来の恋人にとっとけ」

「将来なんて」

「作ってやる、切り開くのは自分だがな。行くぞ。

 直。蜂谷からの情報が間に合ったぞ」

「蜂谷、頼りになるよねえ」

「ねえ、何?」

「ああ、つまり……うん。明日からお前は、爆食の結果に後悔して、ダイエットする羽目になるだろうって事だな」

「ええ!?」

「ご愁傷様だねえ」

 客引きがサムズアップしてきた。






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