第199話 クリスマスプレゼント(3)最期のクリスマス

 翌日から、加奈江さんは昼休みも放課後も、僕達の教室に顔を出すようになった。

 こっちのクラスでは、どうもそっち方面で訳ありらしい、と皆が思うし、貴音もそう言ったようなので、割と好意的に受け取られているようだが、1年の間ではこのところ浮いているらしい。

 心霊研究部の1年生が、何とか、そっちがらみだと言ってフォローはしているようだが。

「心霊研究部の部員って、揃ってお人好しですか」

「そうかもねえ」

 直が笑って、肩を竦める。

「それで、加奈江さん。今日はどこへ向かっている?」

 一昨日の放課後はゲームセンターでほぼ全てのゲームをやり、昨日の放課後はボーリングし続けて腕が痛い。昨日の時点では「テニスしたことが無いわ」とか言ってたから、まさか今日はテニスか?もしそう言いだしたら、図書館かプラネタリウムかマッサージを提案してみよう。高校生だ。マッサージに通ってるとは思えないし。

 そう思っていたのだが、流石に本人も今日まで運動は辛いのだろう。

「爆食。食べ放題に行きましょう。焼肉、串揚げ、スイーツ、どれから行きましょう?」

「え、どれ、から?」

 僕と直は、慄いた。

「さ、流石にそれ全部は、多いよねえ?」

「太るぞ。なあ」

「あら。別にクリスマスまで生きてればいいんです。太ろうが、コレステロールが上がろうが、血糖値が高くなろうが。

 あ、先輩には申し訳ありませんね。

 じゃあ、今日はスイーツバイキングの後カラオケで串カツと唐揚げとポテトとピザのパーティーセット、明日は焼肉バイキングの後タワーパフェ」

 い、いかん。想像したらもうお腹一杯で気持ち悪くなってきた……。

「本当は、一度くらいは居酒屋とかお洒落なバー?とか、行ってみたかったんですけど」

「ダメ」

「仕方ないですねえ。さ、行きますよ!」

 日に日に気配は強まり、本人は憔悴していきながら、加奈江さんは精一杯、僕達を振り回している。


 結局プラネタリウムへ行ってからしゃぶしゃぶ食べ放題へ行き、公園で星空を見上げていた。

 上を見た方が、内臓を圧迫しないのだ。

「あ、さっき聞いたの。オリオン座」

「大三角形発見」

「あれ、子熊座?」

 芝生に並んで寝転がって、空を指さす。

「先輩達は、いつまでサンタクロースって信じてました?」

「ボクは、小学2年生くらいかな。親がプレゼントを置こうとした時に運悪く妹が夜泣きしてボクも目が覚めて」

「お気の毒でしたね」

「僕は、小学3年生の時は、うすうす。でも、次の年、必死に兄がプレゼントを隠してるのをたまたま見つけて、これは知らない振りした方がいい、信じてるフリした方がいいって思ったのは覚えてるな」

「司さん、本当にいいお兄さんだよねえ」

「私は幼稚園の頃には気付いてましたね」

「早いな」

「早熟だったんですかね」

「女子の方が現実的だしねえ」

「うん。サンタの秘密をばらしたのは女子だった。これは覚えてるぞ」

 加奈江さんはクスクスと楽し気に笑っていた。

「さて」

 起き上がる。

「そろそろ帰るぞ」

「えええー。シンデレラの門限は12時ですよ」

「シンデレラ未成年バージョンだからな。

 送るから。行くぞ」

 ぶうぶう言いながらも、加奈江さんは立ち上がって、カバンを掴む。

「先輩達、受験生なのに大丈夫ですか」

「今更言うかねえ」

 ぶらぶらと、駅に向かう。

 大学生や会社員が、早めのクリスマス会か何かで酔って歩き、また、家路を急ぐ。ストリートミュージシャンの前ではカップルが足を止め、女子会なのか合コンなのか、気合の入った格好の女性が歩いている。

 普通に生きて行けば、こんな風になるのだろう。当たり前に、こんなありふれた風景の一部みたいに。

 少し先で、酔ったサラリーマンが好色そうな目をこちらに向けていた。

「行くか」

 促して歩き出そうとした時、スマホがポケットで振動した。

「出てください。

 私、大丈夫です。1人で帰れますから。ほら、バスも来たし。

 じゃあ、また明日。お休みなさい」

 加奈江さんは、身を翻して走り出した。

「あ、こら、待て」

 直が、合図して後を追う。そっちは任せて、電話に出た。

「あ、蜂谷。わかった?」

「おう」


 美沙は急に悲しくなって、走り出してしまった。その体にまとわりつく霊体は、濃く、深く、なっていった。





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