第185話 奇蹟(4)嘆きのイエス

 イエス・キリスト。天照大御神クラスの神だけあって、神威は強い。

 それが現れた途端、外国人勢は犯人も誰もが身を竦ませ、動けなくなっている。平気なのは僕と直、兄。キリスト教徒かどうかの差というわけではないのか。

 僕は直に手の拘束を解いてもらいながら、油断なくイエスを見ていた。

 悪い感じは無い。彼らはそのつもりで降霊を行ったのだろうが、当の本人に、人の肉体を乗っ取る気は無いらしい。

 悲し気ともとれる顔で、立っていた。

 ロイとエドモンドは、膝をついて頭を下げた。

「何という事を……」

「現世に甦る気は、無いんですね」

 僕の問いにイエスは頷き、それを見たリーダーは、愕然として叫んだ。

「なぜです!?我々を、導いて下さい。他の宗教に、キリスト教こそが正しいと、あなただけが神なのだと!」

 イエスは首を横に振った。

「なぜ……!」

 ロイは、静かに口を開いた。

「あなたこそ、なぜそれがわからないのですか」

 リーダーがガックリと首を落とす。

「それに、よく彼に手を出そうと思えましたね」

「何?」

 ロイは溜め息をついた。

「日本霊能師協会の最終兵器、核弾頭、半分人間を辞めた神殺しにして神喰い。レポートは提出してありますし、いくら変装していても、ただの霊力ではないものが洩れているでしょうに」

「……いや、でも……」

「そのくらい、あなたの目は曇っていたんですね」

 悲し気にイエスが目を伏せ、頭を下げて、消えて行った。

 ああ、と、溜め息が満ちる。

「行きましょうか。調書は取らせてもらいますよ」

 6人は項垂れたまま、刑事に連れ出されて行った。

「ああ、奇蹟だ。主がここに……!」

 エドモンドが涙を浮かべている。

「奇蹟申請――は無理ですね」

「ああ。この事件に関しては、完全に秘密にされるだろうからな」

 ロイがアッサリと答えて、エドモンドは肩を落とした。

 が、急に顔を上げる。

「じゃあ、記念写真を撮ろう」

「は?」

「記録に残らなくても、記憶に残る。写真を見れば、夢ではなかったと思えるだろう、レンの女装姿があれば」

「絶対に嫌だからな!」

「頼むよ」

「恥を記録に残してたまるか!

 ああ、もう、早く着替えたい」

「あ、怜。そのままで来てくれって。調書に添える写真とかいるし。それから、色々とバチカンへの説明もしてもらうって」

「やめてくれよ、面倒臭い!」

 スカートだが、知るか!僕は大股で開き直って歩き出した。


 







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る