第183話 奇蹟(2)神を求める者
ウチと同じ間取りだったマンションだが、多少のリフォームがなされていて、リビングダイニングは大人数が集まれるような大部屋になっていた。
それでも、協会のトップ、警察のトップ、陰陽課トップ、警備部トップが密かにやって来て、部屋の中は狭い。その狭い中で、深刻な顔で会議がなされていた。
「えらいことを考える輩がいるもんですなあ、全く」
言ったのは、警察トップだ。
「それ、可能なんですか」
「古来、外法の術として、反魂、甦りはそれなりの数の記述があります。でも、成功の記述は知りませんねえ」
「見かけは成功でも、全くの別物だったり、人形だったり、化け物だったりですね。結局、そんな事は不可能、してはならない事ですよ。
ただ、そいつらは、成功させる気満々だってことですよね、問題は」
支部長が重々しく言い、陰陽課トップの徳川さんが飄々として言って、肩を竦めた。
「ちなみに、これまでにやつらが用意したものって何ですか」
誰だっけ?が訊く。
「霊能力の高い人間の心臓と、キリストの聖骸布を含めた聖遺物が数点です」
「よくそんなものを盗めたな」
思わずポロッと言ったら、ロイは苦い顔をして、
「恥ずかしながら、バチカン内部にもそのバカげた計画に賛同する協力者がいるようで、今回こうして秘密裏に派遣されて来たのも、彼らの息のかかっていない事が明らかな人間を、バレないように、来日させる為です」
そうか。それであの、妙な変装か。
「どうやって守ろう」
「徹底的にガードして」
「いや、永遠にですか?犯人を捕らえないとダメでしょう」
喧々囂々の言い争いだ。もしものリスクはかぶりたくない、でも手柄なら欲しい。そんな人間と、それを冷めた目で見る人間と、見られているとわかってなぜか機嫌が悪くなる者。
「エドモンドとロイは、反対なんですよねえ」
「当然だ。主は見えなくともいつも我らを見守っていて下さる。我らの信仰心と共にある。そんな事は、冒涜以外の何物でも無い。
と、ロイも、私たちの上司であるシンプソン大司教もおっしゃっている」
エドモンドは胸を張り、口を尖らせた。
「情けないよ。バチカンの人間までもがこんな甘言に乗って。それも、日本のロイヤルファミリーに害をなしたらどんな大事になるか」
想像したくない。
「敵の規模とかメンバーとか、何か手掛かりは?」
「サッパリだ」
困ったもんだ。
と、警備部トップの携帯が鳴った。
「はい。――わかった。すぐに、手配しろ」
短く言って切り、皆に告げる。
「今、明治時代に宮家から降嫁したお血筋のお嬢さんが不審者に襲われかけたそうです。だが相手は、やはり遠すぎては薄くてダメか、と言って、去ったそうです。付近の防犯カメラを調べさせていますから、人相、風体、割れるかも知れません」
腰を浮かせかけた一同は、興奮と安堵をないまぜにした様子で「おお」とか言い合い、
「では、それを待って、改めて協議するという事でいいでしょうか」
「警備体制は、現状のものでいいのですか。呪術的な警護などは必要では」
警察トップと警備部トップが言い、まず支部長が口を開く。
「外籍の果てまでとなると相当な人数です。一ヶ所に集めて集中的に守りを固めるというのであれば、協会としては協力可能です。ですが、霊相手ならともかく・・・」
「犯行を行うのはあくまで人間で、普通の手段です。普通に、警備を厳重にするのでいいんじゃないですかね」
言った徳川さんを、警備部トップはギロリと睨む。
「万が一があってはならない。これまでは一般人だったから普通の手段でしてただけで、今度は、ガードが厳重にされていると分かっている相手だ。何をしてくるか、わからないじゃないか」
予防線を張ってきているな、と、僕と直はチラリと視線を交わした。
「どうやって霊で襲うんだ?殺せばいいんじゃないんだから。無傷で手に入れる必要があるんだろ?」
エドモンドが訊いて来て、聞こえた警備部トップは、気まずく目をそらしてお茶を啜った。
「まあ、現状のまま警戒を厳重にして、防犯カメラの結果を待ちましょうか」
と、誰からともなく言って、お開きになった。
防犯カメラでも、相手の人相はわからなかった。フード付きパーカーなどを着ており、マスクとサングラスをしていたらしい。
その間にも、新たな事件が発生した。高い霊能力を持つ女性霊能師が拉致されたのである。
だが幸いにも、その現場を見た一般人に通報され、警察が保護する事が出来た。
が、犯人は逃げた後で、チョークで書かれた陣の中に霊能師が残されていたのみであり、彼女によると、薬物でもうろうとさせられたままそこへ寝かされ、お腹に何かを降ろすような儀式をしていたようだという。失敗した為に無事なまま放置されたらしい。
「間違いなく、主をそこへ降ろそうと試みたんだな」
ロイは、眉間にしわを寄せて唸った。
「一か八かで霊力の高い女性でやってみたけどだめだったんだな。となれば、やっぱり宮家に手を出してくるか」
「不届きものだねえ」
「そんなやつら、信徒じゃない!許さない!」
エドモンドが頬いっぱいにパニーニを詰め込みながら涙目で怒っていた。
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