第178話 黒いもの(4)逞しき心霊研究部員
ボリボリ、ゴリゴリと、骨を噛み砕く音が響く。狸は悠々と鯉を飲み込みながらこちらをジロリと見下ろしており、次は僕達を食べる気だというのは、嫌でもよく分かった。
「小さいのを食って、融合してるな」
たくさんの有象無象が、融合しきれないように、蠢いている。
1年生達が後ろで、ガタガタと歯を鳴らして震えていた。
「宗、楓太郎。女子と1年生を頼む。エリカが出たがっても、部室から出すな」
「はい」
「はい!」
「直、やるぞ」
「わかった」
部室へと皆を急がせ、その後を目で追う狸に浄力をぶつけて気を引き付ける。
「お前の相手は、こっちだ」
狸が怒って二本足で立ち上がり、空気を震わせて声を上げた。ビリビリと、窓ガラスが震える。
狸の攻撃は爪と噛みつきと思っていた。動物の本当の狸ならそうかも知れないが、こいつは、姿は狸でも、純然たる狸ではない。尻尾をぶうんと風を起こすほどの勢いで振り回して来た。
「尻尾がシマシマなのはアライグマで、狸はシマじゃないんだよな、確か」
「怜、そんな呑気な」
「いや、急に思い出して」
会話は呑気でも、行動は激しい。隙を見つけては刀を構えて突っ込み、斬り飛ばしていく。その度に、狸は威嚇し、叫び、足や尻尾を振り回す。
「直」
「はいよ」
走り出すその先に、札が滑り込んで見えない階段を作る。それを踏み台にして跳べば、腕が唸りをあげて飛んで来るので、札が作った横の壁を蹴って地面と平行に跳ぶ。そこから狸の頭上にもう一段跳んで、こちらを完全に見失っている狸を、頭頂部から一直線に斬り下ろす。
完全に両断すると、狸は棒立ちになってから黒い粒子のようなものになって崩れ、消えて行った。
「お疲れ」
「お疲れ」
直とハイタッチで、終了だ。
「いやあ、狸って手ごわいねえ、意外と」
「肉食で獰猛って聞いたぞ」
言いながらもう一度辺りを点検し、残したものが無いのを確認して、部室を振り返る。
「もういいぞ」
「すすす凄かったです」
「狸?狸よね?狸の怨念?狸汁にされた怒りとか」
一斉に飛び出してきて、興奮のまま喋るのは予想通りだ。
しかし、何を言っているのか皆目わからない。
「落ち着け」
宗とユキ以外、興奮している。エリカと楓太郎は今更だろうに。
「お疲れ様でした。流石のコンビネーションですね。動画、撮らせてもらいました。今年の文化祭は、これを使います」
いや、宗も興奮していた。
「まあ、もう少しよく考えてから」
「現部長と次期部長の決定です」
「映画研究会も真っ青ですよ、先輩!」
楓太郎が、目をキラキラさせている。
「もう少し尺が足りないかしら」
「エリカ……何を目指しているの」
ユキが若干引いているが、斎藤姉妹が、
「部員の助けてもらったエピソードを、再現VTRで」
とか言い出す。
今は何を言っても無駄だな。明日にしよう。
それよりも、と、1年生達へ向き直る。
「もうしないと思うけど、中途半端な知識で危ない事をしないように」
「はい。すみませんでした」
揃って頭を下げた。
翌日、学校へ行くと、新しいうわさが生まれていた。
「心霊研究部に入るには、霊的な事件で助けてもらったらいいんだって」
「なんじゃそりゃあ!」
「でも確かに、外れてはいないよねえ」
「ああ、もう、否定に走るのも面倒臭い」
僕と直は、机に突っ伏した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます