第164話 帰りたい(2)ジョセフィーヌと雪だるま
公園のところにあった雪だるまを見に、早速直と出かけた。昨日の夜も降ったので、ガチガチに固くなった上に雪が積もり、歩きにくい。道端に寄せられていた雪も、量を増し、今日は更に大変な事になりそうだ。
「昨日の晩、たまたま雪だるまの話になったんだけどねえ。お母さんがパン屋の傍で見かけたっていう雪だるま、どうも公園の、あれみたいなんだよねえ。
あ、あれだ」
公園から数十メートル離れたところにあるパン屋の近くに、雪だるまがあった。椿の実の目、山茶花の花弁の口に、手の枝の枝ぶり、頭の上の帽子。
「これだな」
「だよねえ」
「……何か、薄っすらと、感じないか?」
「そう言われてみれば……。
霊が入り込んだのかねえ」
「顔を付けたから?あれ。僕のせい?」
「そもそも雪だるまという形だし、気にしなくていいんじゃないかなあ」
2人で、そうに違いない、そうであってくれと、念じる気分で言う。
「こんなもの、誰も運ばないよな」
作りたければ、雪はまだまだそこら中にある。
「自分で、歩いた?」
下を見る。足はない。すり足か?
「気になるな」
「見張る?」
「寒いけど、暇だしな」
コソコソと話し合い、見張ってみる事にした。
ただでさえこの辺りは、お年寄りなどが多くて、あまり外に出て来る人もいない住宅地だ。朝夕に通勤、通学の人間が通る以外、驚くほど人気がない。そうでなければ、雪だるまの移動なんて、すぐに見つけられていたに違いない。もしくは反対に、見られる事を恐れて雪だるまは移動できなかったか。
離れた所から雪だるまを見張っていたが、寒い。それに、ズンズンと移動して行くわけでもなさそうなので、目を付けておいて、家で見張る事にした。
目を生み出して、帽子に、四方を見えるように付けておく。
目と言っても、目玉ではない。そんな通報されそうな、ホラーみたいな事は、流石にできない。単に、しるし、というものだ。
というわけで、家でこたつに入りながら監視する。本格的に使ってみるのは初めてで、テストには丁度いい程度かも知れない。
意識を向けるとしるしからの視界になるようで、自分の実際の視界と重なると、気持ち悪い。しるしのみにしてみると、混乱はないが、その間自分はボーッとする事になる。どうしたものかと考えて、片目ずつにしてみたら、まあ、慣れは必要なようだが、これが一番使える気がする。
「大丈夫?」
「長くやったら、多分気持ち悪くなるな」
突然動きを止めたり、その辺にぶつかってみたり、見ている直も、困った事だろうな。
「大丈夫。コツは掴んだと思う。
お?」
しるしの視界に、犬の散歩をする人が現れた。ダウンのハーフコートを着た若い男で、犬はリードでつながれている。
その犬がフンフンと雪だるまの匂いを嗅ぐように周りをまわる。昨日まで無かったものがいきなりテリトリーに出現したら、犬にとって、不審物以外の何物でも無いだろう。
フンフンとしながら、飼い主を何度も振り返る。
しまった。これ、音は聞こえないな。
しかし飼い主はリードを引いてさっさと散歩を再開し、視界から消えた。
「犬の散歩に通りかかった人がいて、犬が何かを訴えてたけど、散歩に戻ったよ」
「犬が興味を、ねえ」
少しだけ考えて、見に行く事にした。
幸い、少しウロウロしたら、その犬連れの人はすぐに見つかった。
「ああ。あれは柿崎さんだよ。犬はジョセフィーヌ」
「ジョセフィーヌ?」
ハナコとかそんな感じなのに?
「4日前に子犬を産んだばかりだよ。4匹だって」
「子犬か」
僕は猫派だが、子犬はちょっとだけ見たい。インコ派を名乗る直も、本当は犬派なのだ。見たくてしかたないのはわかっている。
ちらりと見ると、目が合った。
「アオには内緒で」
「勿論」
何か、彼女がいるのに合コンする人みたいだな。
「あ。雪だるまが、また動いたぞ」
どんな霊が入り込んだのだろう、あの雪だるまに?
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