第163話 帰りたい(1)歩く雪だるま
寒波がやって来た。車の上も路上も一面の雪で、交通もマヒ状態だ。
「休校かなあ」
期待しながら、雪うさぎを大量に作ってベランダのヘリに並べ、雪だるまを四隅に配置する。寒い、寒いと言いつつも、久々の積雪にウキウキとしてしまっていたのは否めない。
部屋に入って、手をストーブで温めながら、朝食は温まるものを用意しようと考える。
カレーを挟んだホットサンドと、シナモン入りアップルティー、温泉卵乗せホットサラダに決め、取り掛かる。そして、早めに兄を起こす。交通網が乱れているから、早めに家を出る事になるだろう。
「えらく積もったな。
スズメの代わりに、またかわいいお客さんだな」
着替え終わった兄が、ベランダを見て、目を和ませた。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意、クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の、頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。この秋からは、警備部企画課に異動になった。
「ダイヤが滅茶苦茶みたいだね。それどころか、車もあんまり走ってないよ。表に行ってみたら、そこの交差点に一台突っ込んでた」
「危ないな。歩いていても向こうから突っ込んで来るかも知れない。大通りを歩く時は、なるべくガードレールのある道を歩けよ、怜」
「ん、わかった。そうする」
朝食を食べ、今日は早めに兄が出勤して行くのを送り出してから、僕も家を出る。
1階玄関を出たところで待っていると、直が現れた。
町田 直、幼稚園からの友人だ。要領が良くて人懐っこく、驚異の人脈を持っている。1年の夏以降直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた、大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
「おはよう、怜。ひゃあ、寒い」
「おはよう、直。休校にならないのかなあ」
挨拶を交わし、慎重な足取りで学校へ向かう。
「子供は元気だねえ」
小学生が、雪合戦をして全身雪まみれで濡れている。風邪をひかないといいが。
「見てるだけで寒い」
背中が勝手に丸まる。
それでも、一面が雪に覆われると、いつもとは違う道を歩いてるようで、なんだか楽しい。転びそうになるのと靴の中が濡れるのは困るが。
公園の入り口に、雪だるまが作ってあった。誰が作ったのだろう。腰の高さくらいはある。
「力作だな」
「近所の小学生かな」
「折角だ。目を入れてやろう」
落ちていた椿の実を目の所にはめ、山茶花の花弁を口の所に埋め込み、落ちていた枝を腕代わりに刺す。
「立派になったぞ。
ああ、手が冷たい」
「寒波は続くそうだから、しばらく、ここにいるねえ」
僕達は手に息を吐きかけて温めながら、雪だるまに背を向けて歩き出した。
学校に着いたら生徒も教師も少なく、そのまま待たされて、結局休校になって下校となった。
「ああ。こんな事なら、来るんじゃなかったよう」
「直、寒いし、家で温まってから帰るか。何だったらお弁当食べて帰れば」
「そうしようかなあ」
朝よりも滑りやすくなっている路面を慎重に踏みしめて、前かがみで歩く。
ようやく公園まで辿り着いて、雪だるまと対面した。
「明日は土曜日で学校は休みだな」
言いながら、頭が寂しそうなので、頭に雪で帽子を作って乗せてみる。悪くない。
「じゃあな」
「月曜まで残るかなあ」
僕達は、公園を後にした。
そして翌朝、僕は直から、驚きの電話を受けた。
「雪だるまが歩いてるよ」
と。
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