第159話 うらむ(4)黒い神

 黒い神と一緒に封じられると、黒い神は出ようともがいていたが、叶わないと知ると、僕を取り込む事にしたらしい。

 混ざり始めると、同時に僕は、黒い神の事を知る。

 疱瘡の神は、祀る人間も無く、放って置かれ、悪神へと変わった。振袖を恨むのは若くして餓死した女性で、父親が自己破産して一家は困窮し、成人式だというのに、振袖どころか菓子パンひとつ買えず、餓死したらしい。その恨みが、振袖に向かっているようだ。もうひとつは癌細胞らしい。癌で命を落とす事になった行き倒れの人がここで孤独に死んでいき、その癌細胞が取り込まれたようだ。

 成程。振袖を着た人間に伝染し、体が削り取られてもどんどん増殖する。この3者の特徴に合致しているな。さて、これを滅しなければならないのだが。

 ばらばらにできたら、力もガクンと落ちるのでは・・・?

「次の新しい人生に踏み出したらどうでしょう。このまま他人を、恨んだり羨ましがっていても、つまらないですよ」

 何か、動きが変わった。

「成仏しましょうよ」

 若い女性が、ボコリと離れる。

「次の、人生」

「はい。逝きますか」

「次は絶対……」

 浄力を浴びせると、黒い神の質量がグンと減った。

 残りは徹底抗戦の構えらしい。それならこちらもやるだけだ。

 斬り、削り、内部に浄力を送り込んで浸透させる。首無し侍がやった要領だ。

 こちらに浸透してきたものは、圧縮し、内部で浄力を回して消滅させる。

 僕から離れた疱瘡神が、唸り、怒る。最初からしたらとても小さくなって、細胞分裂も追いついていない。放り出したのは悪いが、祟られても困る。消えてもらうしかない。

 斬って、斬って、斬って、浄力を浴びせ掛けた。

 消滅を確認して、札を内部から破って出る。

 青い、泣きそうな顔の直が最初に見えた。

「よお。終わったよ」

 直は、

「お疲れさん」

と笑った。


 その後事態は急速に終息し、安全宣言が出された。成人式も安心だ。

 そして僕は、疱瘡神と癌と恨みを抱えた霊との合体したものを取り込んだ影響か、3日程寝込んだ。風邪みたいな感じで熱が出ただけだったが、しっかり、しつこく、検査と観察をされた。

 疱瘡も癌も残ってはおらず、ただ、目のようなものを作り出せるようになった。ドローンにくっつけて飛ばしたら、監視ドローンだ。だが、疲れる。二重の視界に、酔いそうだ。

 ああ。面倒臭い騒動の後は、面倒臭い体質が残ったものだ。

 せっかく病院の近くに大きい神社があるのだからと、僕と直は神社に寄って手を合わせた。

 今年こそは、面倒臭い事件も無く、平穏無事に過ごせますように、と。


 


 

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