第158話 うらむ(3)天然痘

 そのグループを見つけたのは警察で、その中の1人が書いたブログを見つけたのは蜂谷だった。両方、目の疲れが酷い。

「大学生グループで、31日はドライブして、夜中から神社や寺をハシゴして周ってたらしい。身柄確保に、今警察が行ってる。全員男で、キャリアかも知れないが、やつらが仕掛けた様子は無いし、自覚も無い。こっちは俺が浄化に当たるよ」

 蜂谷から連絡を受けたのは、新しい患者もそろそろ落ち着いてきた頃だった。

 蜂谷恭介。妹の敵討ちの為に一時は外道に落ちた霊能師だったが、今はまともな霊能師として協会に所属している。元々腕のいい霊能師で、電波を介した術や解呪などでは、右に出る者はいない。

「そのブログに出て来た崩れかけの神社ってのが、どうも怪しい」

「それが、ここかあ」

「前後のブログやグループの他のやつがSNSに上げた昼飯なんかから絞り込んだ。真疱神社。もう誰も管理していないから、現状も不明だな。疱瘡がまだ流行っていた頃に、疱瘡を神として祀り上げて封じ込めた神社だろうが、WHOも絶滅を宣言したし、辺りは寂れて過疎化したしで、用無しとなったってところだろうな」

 蜂谷は電話の向こうで溜め息をついてから、声を真剣なものにして、続けた。

「寂れた神社は気を付けろよ、怜怜。弱った所に何が入り込むかわかったもんじゃないし、疱瘡、天然痘なんて強いヤツを祀り上げたんだ。悪霊化したら、それだけ強いやつになる。やばいぞ」

「わかった、気を付けるよ。ありがとう。そっちも気を付けて」

 電話を切る。一緒に聞いていた直は、送られて来た地図を見て、

「山の中の、誰からも忘れられた神社だろうねえ」

と、しんみりと言った。

「気の毒と言えば気の毒だけどなあ」

「そうだねえ。でも、用無しとなって拗ねてたところに、晴れ着に恨みを持つ何かがやって来て合体しちゃったんだよねえ」

「うん、たぶん。

 なんか、寂しい者同士が意気投合した感じなのかな?」

「そういうものなのかねえ?」

「まあ、着いたらまず囲い込んで、浄化できないかやってみよう」

「そうだねえ」

 僕達は、寂しい神様の事を考えながら、車の後部座席に乗り込んだ。


 その神社に着いてみると、もう見るからに、これはだめだろうという感じがした。どうしてここに参ろうと考えたのかがわからない。

 肝試し的な感覚か、寂れ果てた様子に同情したか、恐ろしさのあまりに参っておこうと思ったのか。

 とにかく、参った事で、キャリアとしての役割を与えられたのだろう。寺社で彼らとすれ違った晴れ着姿の人間が発症していたのだという事が、防犯カメラの映像で分かっている。

「さて、行くか」

 事前の作戦通り、行動開始だ。

 まず、直が神社の周囲を札で囲み、逃がさないようにする。それによって刺激された神が、表に出て来た。

「酷ェな」

 思わず誰かが呟いた通り、酷いものだった。大きさは3メートル程だろうか。元々の疱瘡の神に、晴れ着に恨みをぶつける何者か、それにもうひとつが加わって、一体化しているらしい。黒いグズグズとした塊という感じで、形が一定でなく、常に泡立つように蠢いていた。そして、腐ったような、死期の近い患者のような、そんな臭いがしている。

 それに、一斉に浄力を浴びせる。

 だが、一向に効果がない。表面を浄化しても、それを補うように、幾らでも内側から黒いものが生まれ出て来るのだ。恐ろしいまでの回復力だ。

 用意していた札を、きる。それは豪華な振袖に変じた。

 そこへ、手を伸ばすように黒い神は体を伸ばし、そこへつけ込むように、浄力をまとった刀を突き立てる。

 黒い神が慌てたのは一瞬で、すぐに活性化するかのように忙しく蠢き、僕の全身を取り込んで来る。それはまるで、シャーレの中の菌の動きを見ているようだ。

「直!」

 こういう場合は封じろと決めてあったが、それでも一瞬躊躇はしたらしい。だが、直は札を使って、黒い神を僕ごと完璧に封じた。

 






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