第157話 うらむ(2)狙われた振袖
隔離病棟がある病院には、救急車がひっきりなしに新しい患者を搬送し、報道陣が詰めかけていた。主な症状はとにかく高熱で、インフルエンザ抗体は見つかっていない。今は、脱水症状にならないように管理して、病原体の発見に努めている最中らしい。
それと平行して、患者の行った寺社の全ての防犯カメラをチェックし、同一人物に接触していないかを探る、気の遠くなるような作業をしているようだ。
そして霊的案件の可能性も鑑みて、僕と直も、隔離病棟を訪れて患者を見た。
「穢れだな」
「うわ。酷いねえ、これは」
直が眉を寄せる。
町田 直、幼稚園からの友人だ。要領が良くて人懐っこく、驚異の人脈を持っている。去年の夏以降直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた、大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
穢れが、どの患者にも付いている。
病気の人には多かれ少なかれ付いているのかと、念の為に院内のインフルエンザや色んな患者を見て回ったが、こういう例はなかった。
「これは間違いなく、霊的なものです」
試しに1人、浄力を当ててみると、穢れが消えて、熱が下がり始めた。
急遽全患者に浄化が行われ、後は、この後発生する患者にも対応するだけでとりあえずはいいが、大元を消さない限り、終わりが無い。
この事実はまだマスコミには発表せず、発生元と感染経路の割り出しが急がれる。
ただ、大元に関しては、ヒントはあった。
「疫病を押さえる為に祀り上げられた神と、晴れ着に執着して、恨み、憎しみの念を強く抱く者が合わさってると思います」
課長に報告すると、疫病関係の神社を片っ端から調べると共に、神社本庁にも協力を仰ぐ事になった。
そこに含まれないものもある筈で、正月早々、大変な騒ぎである。
真疱神社に参った大学生は、テレビや新聞で奇妙な伝染病のニュースを聞き、怖いなあと言い合っていた。
「患者が行った神社とか寺とかって、俺らが初詣でハシゴした所だな」
「うつらなくて良かったなあ。振袖じゃなかったからか?」
「男で良かったあ」
言いながら、適当なつまみでビールを飲み、お互いの幸運に乾杯する。
「それにしても、振袖だと罹り易い病気って何だ?染料とか生地とかに何かあったのかな」
「それより、もう少ししたら成人式だぞ。振袖だらけなのに、やばくないか」
「ああ、女はほとんど振袖だな」
「成人が18歳になったら、もしかして制服で出席するのかな」
「着物業界が文句言うぞ」
「とりあえず、大酒呑んで荒れる成人式ってのは無くなるな。成人は18歳でも、飲酒は20歳だろ」
「そうだな。それはいい点だな」
そしてその勢いで、ブログに書き込んだ。それらの神社には俺達も行ったけど、俺達は運良くかからなかった。振袖に縁のない男だからか、その前に行った、崩れかけの神社にお参りしたのが良かったのか。とにかく、患者の皆さんの回復を祈ります、と。
自動車免許やバイク免許のある霊能師が各神社を確認に回り、僕や直のような自転車や電車しか移動手段が無い人間は、病院で浄化に当たる。霊能師総出である。
警察もカメラのチェックは続けており、とんだ正月だ。
「振袖に恨みがあるって、何?」
「潰れた呉服屋?」
「ドレスの方も、振袖に客を取られたとか」
「振袖が着たいのに着られない」
「貸衣装屋とか着付けの人とかで、クレーム付けられたとか」
「振袖のクリーニングでのクレームもありかも」
休憩時間に適当に喋っていると、沢井さんが少し考えて、
「それ、進言してみます」
と、徳川さんに電話し、それで警察の捜査対象もまた増えた。
「こんな面倒臭い事させて。犯人、見つけたらただじゃおかない」
僕は、心に誓った。
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