第151話 ブラッディ・ハロウィン(4)リアルホラー

 上映が終了し、体育館の扉がゆっくりと開く。それを全ての人が、固唾を飲んで見ていた。

 辺りはもう既に真っ暗で、その中を、中から人影が出て来る。血染めの白衣の看護師だった。銃声がして、足が止まる。だがそれだけで、そのまま前に進む。次に出て来たのは首が変な方向に曲がったライダースーツの若者だが、銃声がしたが、そのまま進む。次は顔の半分を陥没させたOLだったが、やはり同じ。次々と、着物のお婆さん、千切れかけた足を引きずった子供、自分の頭を両手で抱えた日本兵、全身焼けただれた国民服の若者などが続き、銃声が響き渡るが、誰一人として、痛がる様子もない。

 それどころか、楽しそうに笑っている者までいた。


 ジャック・オー・ランタンは、パニックになっていた。

 初めの1発だけなら、外したのかな、で済む。だが、どう考えても、これはおかしい。絶対に外してない。なのに、誰も死なないのである。

「え、何で、嘘だ、どういう事!?」

 しかも、撃たれた後、相手はこちらに向かって、笑いかけたり、目線を合わせて来るのだ。もう、こちらの位置もわかっているとしか思えない。ありえない。撃たれて死なないのと同じくらい、ありえない。

「ホラーだ……。リアルホラーだ……。は、はは……」

 ジャック・オー・ランタンは、もう弾が無い事にも気付かず、背後のドアを打ち破られた事にも気付かず、両手を捻り上げられて床に這わされ、やっと、現実に戻って来た。

 そして、泣き出した。

「こ、怖い、助けて。死なないよ。こっちを見てるよ。何なんだよ、あいつら一体、何なんだよ……!」


 犯人確保の知らせを受けて、警官達が体育館に入って行き、試写会参加者達を保護する。

 そのうちの何人かは青い顔をし、何人かは黙礼をした。幽霊を実体化の札でしっかりと見たのだ。夢に見たらごめんなさい、だ。

 そして僕と直は、体育館の入り口に仕掛けた札で実体化し、ゾロゾロと行進する幽霊達を、隣の墓地まで誘導する。

「今日はありがとう。ご苦労様」

「トリックオアトリート!」

「はい、飴玉ねえ」

 墓地の入り口で1人1個ずつ飴玉を渡し、念願のハロウィンの仮装行列を終わらせる。

「楽しかったよ。こちらこそありがとう」

「ははは。今日だけの特別企画ですからね。明日からはだめですよ」

「残念だわあ。また来年も事件が起こらないかしら」

「縁起でもない」

 飴玉を配り終え、満足したらしき彼らと別れて、本部の方へ戻る。

「見られてないかな」

「一応、警察が規制線を張ってはくれてたけどねえ」

「その警官が見たな」

「うなされない事を願うのみだねえ」

 言いながら、戻る。

「終わりました」

「おう、ご苦労さん」

 水口さんは機嫌よく言ってから、笑い出した。

「犯人、ビビりまくってたらしいぞ。クククッ。いやあ、撃たれた人も幸い軽傷だったし。いやあ、良かった。

 協力、ありがとう。助かったよ」

「いえ。お役に立てたなら良かったです」

「はい。面白かったですしねえ」

「徳川も、サンキューな」

「いやいや。なかなか見られない仮装行列も見られたしね」

「できれば、ビビりまくる犯人も見たかった」

 4人で想像し、同時に噴き出した。


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る