第150話 ブラッディ・ハロウィン(3)カウントダウン

 現場は、警察と報道陣と野次馬でいっぱいだった。

 それでもそこを、先に電話して待ち合わせしておいた徳川さんと一緒なので、スイスイと進む。

「あ、警視正!」

 徳川さんは兄の元の上司で、陰陽課のトップにして、生みの親だ。全警察官のトップ3パーセントに余裕で入るくらい偉いだけあって、誰にも止められることはない。

「やあ」

 と、散歩に立ち寄ったくらいの気安さで、本部奥の、間違いなく偉いだろう人に近付いて行く。

「徳川じゃないか。ん?」

 こっちを見る。

「ははは。とっくに調査済みだろう?御崎君の弟とその親友、そして霊能師協会の誇る最終兵器の核弾頭コンビにして、未来の警察キャリア予定」

 その人はニヤリと笑うと、意外と気さくな顔で片手を差し出した。

「ははは。わざわざ調べなくとも、色々な事件で名前がひっきりなしに出て来るからな。

 水口だ。熊澤のテロの時も、この前の首刈りの亡霊の時も、世話になったね」

「御崎 怜です。よろしくお願いします」

「町田 直です。よろしくお願いします」

 握手をして、笑顔を引き締める。

「で、今日はまた?」

「うん。この子達が面白い事を思い付いたんでね。

 因みに、救出のメドなり犯人確保のメドなりは立ってるのかな」

「残念ながら」

 水口が肩を竦める。

 徳川さんは、楽しそうに笑って、言った。

「乗ってみるかい?」

「まずは聞いてからだな。

 おい、御崎を呼んでくれ。それと、コーヒーを人数分頼む」

 チラリと時計を見て、椅子を勧める。すぐに兄が来て、一瞬足を止めてから、そばに来る。

「さあて、作戦会議といこうか」


 数分後、僕は試写会会場にいるクラスメイトにメールを送ってみた。

「あ、返事が来た。電源切ってないんだな。今回は助かったけど」

「まぽりん、マジかわいい?こいつ、現実逃避してないかねえ」

「ばかだな」

「ばかだねえ」

 溜め息をつきながらも、メールを打つ手は止めない。

「上映が終わったら、体育館入り口のドアを開けて、ドアから離れておいて欲しい。警察が行くまで、そのまま着席して待っていて下さい。と」

 送信してしばらくしたら、返信が来た。

「監督の田中です。わかりました。そのようにします。だって」

「よし。では、始めよう」

 水口が言って、キビキビと指示を出し始める。

 そして僕と直は、隣の墓地を目指した。


 SATの隊長と兄は、そっと隊員を引き連れて、犯人の籠城していると思われる場所を特定し、包囲するために向かった。

 本来ならSITかと思われるところだが、中に首相の孫がいる事から、政治的な背景がある事も考慮して、テロ事案の可能性もありという事で、SATの出動となったのである。

 スタッフが撃たれた時の角度から類推して、狙撃地点はそのマンションだと思われた。次に、中の人物の体温、会話を収集し、シロの部屋、グレーの部屋と振り分けて行き、そこの住人についての資料を取り寄せて、クロの部屋を探って行く。根気と丁寧さとスピードが必要とされる作業だ。


 ジャック・オー・ランタンは、油の付いた指をペーパーで拭いて、カーテンの隙間から外を覗いた。

 上映開始から30分程。映画は面白いところに差し掛かっているだろうか。皆、どんな気持ちで映画を観ているのだろう。人生最後の映画が、パニックホラー。もうすぐ、自分達もそんな姿になるのに。そう思うと、愉快で仕方なかった。


 上映終了まで、1時間12分。




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