第134話 首の無い侍(2)パトロール
残暑が厳しい。本当にあと数日で2学期が始まるんだろうか。
これだけ暑いと、兄ちゃんも疲れるよな。疲労回復なら、かつお、マグロ、鶏の胸肉。あとはビタミンB群か。今日は予定ではチキン南蛮だが、揚げ物、嫌じゃないかな。タルタルソース、くどくないかな。
考えながら風呂掃除を終えてリビングに入ると、師匠が真剣な顔でテレビを見ていた。
「また、警察官がやられたぞ。今度は駅前の交番の中で、首を落とされていたらしい」
「また警官……テロかな」
「それらしい声明も出されていないらしいし、手口が不可解だ。今度は交番内の様子が全部録画されていて、犯行の一部始終が残っていたそうだ」
師匠の横に座る。
「事務作業をしていて、いきなり、ポロリと落ちたらしい」
「え、それって」
「ああ。人ではない。
怜。とうとう、やつが来たようだ」
「はい。師匠」
静かに、師匠は頷いた。
夜になっても、昼間の熱が足元のアスファルトから立ち上るようだ。
「熱帯夜、いつまで続くんだろうねえ、全く」
直がシャツの襟もとをパタパタさせながら言う。
町田 直、幼稚園からの友人だ。要領が良くて人懐っこく、驚異の人脈を持っている。去年の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情に精通し、いつも無条件で助けてくれた、大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
協会に正式に依頼があり、協会は、たくさんの霊能師をつぎ込んでことに当たっていた。
まず相手は制服警官を狙うらしいという事。そしてその範囲は今のところは都内になっている。だが、制服警官全てに霊能師をつけるのは難しい。だから、警官全員に札を必ず持たせ、霊能師はエリアを決めてパトロールしているのだ。そして、犯行時刻は深夜。
僕と直は師匠と一緒に担当エリアの夜道を歩きながら、それらしい気配がないか探っていた。
「どこにいるんだろうな」
「普通の人には見えないから、目撃情報もないしねえ」
「困ったなあ」
時々定時連絡を入れながら歩いていたが、それも終了時間になり、各々、協会本部に戻る。
「都内の警官が襲い難くなって、他府県に行かないだろうか」
誰かが言って、それも困る、まずいと唸る。徳川さんと兄もいて、頭を抱えていた。
「やっぱり、エサが必要かな」
もう、それしかないんじゃないか、面倒臭いけど、と思いながら言った。
「エサ?」
「囮ですよ」
「……流石に囮をやってくれとは言えんだろう」
古参の霊能師が言うが、徳川さんと兄はやけに恐ろしい顔をこちらに向けて来る。なので、そっちは見ない。
「怜怜がやるって言うんだろ」
溜め息をついて蜂谷が言った。
「……一般人にはやらせられないし」
「怜怜、あのな、子供にもやらせられない。俺がやるわ」
「いや、僕がやる。言い出しっぺだし。師匠にも鍛えられたし」
「いやいやいや。幕末の人斬りだぞ。俺は剣道初段だ」
「人斬り相手に、それ、微妙……」
「微妙言うな、怜怜」
ギャーギャー言っていると、兄が立ち上がった。
「自分がやります。警察官がターゲットなのだし、陰陽課の人間がやるべきです」
「兄ちゃん、だめだ!相手が見えないし気配が読めないのに、危なすぎる!」
「お前にやらせるよりいい」
「いいや、僕がやる。どうせ相手は霊能師がする事になるんだし、変わらないよ。手間が省けるだけだ。合理的だな。支部長」
「え、うううん」
「徳川さん」
「……そうなんだけど、未成年に、なあ……」
「徳川さん。僕は未成年だけど、プロだ」
直は盛大な溜め息をついた。
「司さん、徳川さん。怜がこう言い出したら、もう聞かないでしょ。ボクらは、せめて完璧にサポートするだけですって」
ああ。絶対に説得が面倒臭いと思っていたが、その通りだな。
「忘れてませんか。僕達は、果し合いに行くんじゃない。祓いに行くんだ。そうでしょ」
これならどうだ。ああ、面倒臭い。
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