第131話 ほたる(3)夜の神社

 翌日、宗が夜に神社に行くと、先客がいた。

「怜先輩。こんばんは」

「ん、宗か。こんばんは」

 御崎 怜。心霊研究部2年生の先輩で、本物の霊能師だ。これまで色々と助けてもらったし、料理も上手いし、本当に凄い人だとはわかっているのだが、ちょっとそれは、理解できなかった。

「何で1人で、木刀持って転がってるんですか」

「……これは、その……1人じゃなくてだな」

「ああ。いらっしゃるんですね」

「うん。剣術指導をして下さってるんだ。

 師匠、後輩の水無瀬宗です」

 怜は虚空に向かって話しかけている。

 宗はとりあえず、

「水無瀬宗です。よろしくお願いいたします」

とそのあたりに向かって頭を下げておいた。

「宗は写真か?」

「はい。このご神木と月をと思って。

 でも、今夜は雲が多いですね」

「ああ。でも、晴れるかもしれないしなあ」

 2人で、雲の多い夜空を見上げた。

「折角ですから、写真を1枚撮りましょうか」

「あ、師匠。宗は心霊写真を撮るのが特技なんですよ。宗なら師匠も写真が撮れるから、記念に1枚撮ってもらってもいいですか。

 はい!じゃあ、宗、頼む。ええと、師匠はここにいるから」

「はい。撮りますよ」

 フレーム中央から少し右に怜をずらして、シャッターをきる。

 すぐに再生して確認してみたら、バッチリ、怜と侍姿の霊のツーショットになっていた。

「ありがとうな、宗」

「いえ、このくらい。先輩のパソコンにデータを送っておきます」

「頼む。

 宗は毎晩、あちこちに写真を撮りに出かけてるのか」

「毎晩というわけにはいきませんが、まあ、夏休みとか冬休みとかは、出やすいですしね。

 あ、そう言えば、昨日の晩、同級生に会ったんです」

 宗は、留夏が絡まれていたところから話し始めた。

「という事があったんですが」

「見てないから絶対じゃないけど、それは、その子を守ろうとしたのかもな」

 宗は、納得した。

「言われてみれば、それで助かったんだし、そうですね」

 深くうなずいた時、騒がしい声が近付いて来た。

「もう。なんでついて来るのよう」

「2人で散歩した方がいいじゃない。危ないでしょ」

「危なくない!」

「危ない!」

 石段を登って来たのは、斎藤姉妹だった。


 姉妹は怜と宗の周りをグルグルと回りながら、口も忙しく動かしている。

「なんで付きまとうのよ」

「家族でしょ、姉妹だもん」

「そんなの、親の再婚でたまたまなっただけじゃん。他人じゃん」

 なぜそうなったのかわからないまま、怜と宗は途方に暮れていた。どっちを見たらいいのだろう。目が回る。口喧嘩するにしても、止まってくれないかな、と願った。

「今から家族なの。わかりあうの」

「勝手な事言わないでよ!そんなの私は望んでない!」

 ようやく足を止めた2人だったが、ホッとする前に、怜の顔が真剣になるのに宗は気付いた。

「怜先輩?」

「寄って来てる。元からいた方じゃなく」

「え?」

 3人が、聞きとがめた。

 急に、それまで風が無かったのに、木々が揺れ、砂が舞い上がる。

「何?」

 留夏と梨那は不安そうに身を寄せ、ハッと気付いた留夏が離れる。

「留夏!」

「フ、フン」

「ツンデレか、斎藤」

「だ、誰がよっ!」

 プッと噴き出して、怜は表情を引き締めた。

「大したことの無い弱いヤツだな。これなら……」

 言ってるそばから、小石がフワリと浮いて梨那に向かって飛んで来る。

「キャッ」

 そしてそれは、目に見えない何かに跳ね返されて地面に落ちた。

「はい、どっちもそこまで」

 言いながら、怜が腕を払った。

「怜先輩?」

「あ、あの?」

「ああ、見えるようにしようか。その方が説明しやすいしな」

 そう言って怜が手を振ると、そこに、4人以外の人物が現れた。





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