第130話 ほたる(2)委員長とツンデレ

 都会の空は明るくて、星空がよく見えない。2時か3時にようやくといった感じだ。それはわかっていたが、明るいなりに月が見えるだろうと、宗は早くから、カメラを準備しているのだ。

 宗は背後を振り返り、話しかけた。

「遅いから、帰った方がいいんじゃないか。女の子だし」

 絡まれていた女の子が、宗の後ろでしゃがみ込んでいた。

 やたらと肩や胸元が出て、スカートが短い。化粧をしていたが、「しています」と言わんばかりの派手なメイクで、慣れた感じではなく、夏休みデビューを窺わせた。

「いいじゃん。

 それより、写真撮りに来たの」

「ああ」

「何の」

「朝焼け」

「まだ夜中だよ」

「月も撮りたいからな」

「ふうん。いつもここに来るの?」

「いや、今日はたまたまここで、明日は、神社に行こうかと思っている。あそこのご神木と、明日の八日月を撮りたい」

 2人並んで、空を見上げる。

「あんた、心霊研究部の水無瀬宗でしょ」

「知ってるのか。そっちは?何か見覚えはあるような気がするけど」

「……斎藤留夏さいとうるか。2組」

「ふうん」

「幽霊なんて怖くないの」

「ああ。先輩について色々と体験して、怖いのもたくさんいたけど、悲しい霊も、かわいそうな霊もいた。多分、人と同じだろう。

 斎藤は怖いのか」

「こっ、怖くなんてないからね。全然っ」

「そうか」

 こみ上げる笑いを、宗は必死で隠した。

「み、水無瀬こそ、いいの。一晩中外にいて」

「男だしな。それに、写真を撮りに行く事も、どこに行くかも、一応言ってあるし」

「ふうん。ちゃんとした家なんだね」

 留夏は宗の隣へと移動して、膝を抱えた。


 俯きながら、ボソボソと話す。

「中学の時から親がケンカばっかりしてて、卒業前に離婚したんだよ。でも、どっちについて行くかって訊かれても、私、そんなの選べないし、受験もあるし、それまでのゴタゴタでこっちも限界だったし、つい、お父さんに酷い事言っちゃった。それが最後の会話になって。

 お母さんとも、お母さんの再婚相手とも、義理の妹ともギクシャクしてるのはわかってるんだけど、なんか、どうしたらいいのかわからなくて。

 義理の妹って知らないかな。同じ学年だよ。斎藤梨那さいとうりな

「義理の姉妹で、同じ学校、同じ学年か」

「そう。やり難いんだわあ……」

「ああ……」

 仲がいいならともかく、そうでないなら、ちょっとやり難そうだ。

「歩み寄ってみるとか」

「無理」

「何で」

「全然違う。合わないんだよねえ、趣味とかさあ」 

「そこはお互いにだな」

「えええ……」

 留夏が嫌そうに顔を歪めた時、背後から、足音と声がした。

「見つけた!」

 振り返ると、女の子がいた。

「ゲッ、梨那」

 そう言えば、こっちにも見覚えがある。

「あれ?心霊研究部の水無瀬宗君だよね。うわあ。

 あ。帰ろう、留夏」

「放っておいてよ」

「お母さんもお父さんも心配してるよ」

「いいから放っておいてってば!3人で家族してればいいじゃない!」

「おい、斎と――」

「何言ってんの、留夏のバカ!」

「はあ!?」

 2人は口喧嘩を始め、宗はつくづく、女の口げんかを男が仲裁なんてできないと思い知った。

 早口でポンポンと応酬し、宗がポカンとしているうちに、

「知らない!」

と留夏が身を翻して階段を駆け下りて行き、それを梨那が

「待ちなさいよ!」

と追いかけて行った。

 宗はそれを見送ってから、

「嵐みたいだったな」

と呟いて、またファインダーを覗き込んだ。







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