第122話 未来・直(1)帰省

 魔法少女はないだろう、23歳にもなって。それが正直なところだった。

 町田 直、高校2年生だ。要領の良さと人当たりの良さを自負している。去年の夏から霊が見え、会話ができる体質になった霊能師で、祓うのはできないが、札を使うのとインコのアオとのサポートではちょっと自信もある。

 今日行った仕事先にいたのは23歳で亡くなったアニメのコスプレ趣味のある女性で、亡くなってポルターガイスト的な事ができるのに気を良くして、魔法少女になりきって、皿やら何やらを飛ばして遊んでいたという、そういう人だったのだ。

 コスプレも勝手にしてくれたらいいけど、それで人に迷惑をかけてはいけない。

「明日からだよなあ、田舎」

 そう言う怜も、疲れた声をしていた。

 御崎 怜。幼稚園からの友人で、かけがえのない相棒だ。あんまり表情に感情が出ないから分かり難いし、面倒臭いが口癖だから誤解されやすいけど、お人好しなところがある。去年の春から霊が見え、会話ができる体質になりはしたが、霊能師になって走り回るのも、困っている人を放って置けないと言うところが大きいと思う。

 面と向かっては言わないけどね。

 今日の仕事も一緒で、2人して、魔法少女に翻弄された感がある。

 だから、それを見た時の気持ちは、もう。

「コスプレの幽霊?」

「いや、本物の侍かも」

 少し話してみて、いい人っぽい感じだったので、安心はした。そればかりか、もっと色々と話を聞きたいと思った。ああ、田舎に帰るのが明日でなかったら!

 そして泣く泣く、ボクは怜とお侍さんに別れを告げた。


 父の運転する車に乗り、両親、妹との4人で、田舎を目指す。

「帰ったら面談ね。どうするか決めたの?」

 母が訊いた。

「うちはまだ下に晴もいるから、私立に行くなら奨学金で行って欲しいわ」

「母さん、直の一生に関わる事なんだから、まあ、何とかするから」

 父が言う。ありがとう、父さん。

「ねえねえ、怜君はどうするの。進路、別々なの?」

 妹の晴がそう訊く理由の半分は、晴が腐女子だからだ。恐ろしい事に、実の兄と怜とでそういう本を出している疑いがある。こんな事、怜にも、司さんにも言えない。

「怜は公務員って前から言ってるよ。ボクも、まあ、安定性とかを考えたら公務員だねえ」

「ふうん」

 妹よ、その嬉しそうな顔をやめろ。頼むから。

「まあ、公務員ならいいわねえ。とすると、文系?国公立にしてよ、なるべく」

「がんばるよ」

 ボクは返事をして、久しぶりの田舎に思いを馳せながらうたた寝を始めた。









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