第121話 未来・怜(4)三者面談

 蝉の声があまりにも凄くて、まるで音の中に閉じ込められるような、閉塞感すら感じた。

「国立文系、と」

 担任教師が、手元の調査票に書き込む。

「はい」

「霊能師って文系なのか?」

「いえ、そうではなく、僕は公務員を――警察官を目指します」

 兄と担任が同時に僕を見た。

「何でまた。折角の国家資格なのに」

「誰かの役に立とうと思ったので資格は取りました。でも職業として選ぶなら、兄のような警察官になりたいと思います」

「ああ……それでいいですか、御崎さん」

「はい」

「具体的な学校選びはまた来年としても、まあ、いけるでしょう。

 全く。仲がいいなあ、お前らは」

 ん?兄弟仲の事だろうか?

「よろしくお願いします」

 教室を出て、次の順番の親子と入れ替わる。

「警察でいいのか?」

「うん!」

「そうか。どうせなら、警察官僚になったらどうだ。参考書もあるし。

 まあ、とにかく帰るか」

「そうだね。忙しいのに今日はありがとうね、兄ちゃん」

「気にするな。当然だ」


 買い物をしにスーパーへ寄ってから家に帰る。

 ああ。師匠にもお土産を買って行かなくては。

 あれから師匠は実体化の札で実体化し、兄にきちんと紹介して、師匠としてうちにいる。話も合うらしく、随分と2人共楽しそうだ。今は家で、留守番をしてくれていた。

 帰ると、徳川さんが来ていた。

「あ、お帰り。お邪魔してるよ」

「いらっしゃい」

 おお。師匠、ちゃんとお茶を出してくれている!

「面談、どうだった?」

「担任の先生も良さそうな先生で――」

 兄の言うのを遮って、徳川さんが口を挟む。

「いや、そうじゃなくてさ。進路希望、どうなのかなと思って」

「警察官を目指すそうです」

 徳川さんの目がキラリと光った。

「ふうん。そう、ふうん。どうせならキャリアになりなさい、怜君。その方が、もっとたくさんの人を助けられるし、上でないとできないことも多いからね。

 よし。直君も呼ぼう。

 よしよし。いい風が吹いて来たぞ。

 あ、直君?今御崎君の家にいるんだけど、君も来なさい。ありがたい話をしてあげるから」

 スマホで直に電話をかける徳川さんを置いておいて、師匠にあいさつをする。

「師匠、ただいま」

「お帰り。冷たい麦茶飲む?」

 師匠はニコニコとして、麦茶のグラスをくれた。

「そうとなれば、万が一にもあいつに負けないように、しっかりと鍛えてやらないとなあ」

 師匠が使命感に燃えていた。これ以上しごかれるのだろうか。

「怜君、座学は任せなさい。公務員試験まで、しっかりみっちりとぼくと御崎君とでサポートさせてもらうから、心配いらないよ」

 あれ?何か、あっちも燃えてる?

 どうしよう。なんかこれから、ちょっと大変な、面倒臭い事になりそうな予感がするんだが……。

 僕はそこはかとない不安を感じながら、早く直が来ないかな、と思った。






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