第116話 まつり(3)きのこの妖精

 真っ直ぐに伸びる大きな木々、細い山道、道端の雑草。景色などに変化は無い。それでも、小鳥の声、蝉の鳴き声がしない。

 かたまって辺りを窺っていると、どこからか、声だけが聞こえて来た。

「人間が6人だ」

「今年の獲物は6人だ」

「もう帰れないよ」

「今年はどちらがたくさん獲物を捕まえるか」

「さあ、祭りの始まりだ」

「祭りだ」

「祭りだ」

 ざわざわと声と気配が取り囲む。

 良くはわからないが、僕達6人が獲物で、これから、獲物を捕まえるという祭りが開催されるようだ。とにかく一旦逃げ出して、脱出の方法を考えるべきだ。

 何かが、飛んで来た。

 その目の前に札を放ち、目を眩ませている間に、まずは逃げ出す。


 大きな岩陰に隠れ、一息つく。

「あれは何!?」

「わからない。でも、過去の神隠しの正体はこれかもな。

 直、札はどのくらいある」

「20枚だねえ。その内白紙が半分」

「敵はなるべく僕がやるから、身を潜めたり、脱出の時の為に使おう」

「わかった」

「皆は、とにかくはぐれないように」

「わかったわ」

 各々、硬い顔で頷く。

 と、何かの気配が近付いて来た。数は、3、いや4か。それは足音を立てず、少し先で、こちらを窺っているらしい。

 右手に刀を出し、皆を下がらせる。

 最初の1頭が飛び出して来た。犬か。それを、空中にいる間に切り捨てる。それが地面に落ちる前に次のが飛び掛かって来たので、それも片付ける。

 背後で、エリカとユキが短い悲鳴を上げた。

 あと2頭は、体を低くして唸っている。さて、どう来るか。

 ダッと同時に飛び出して、少しの時間差で飛び掛かって来た。近い方に真っすぐ刃先を向け、口から突き入れて串刺しにし、それで刀から手を離して実体化を解くと、すぐに右手に刀を出してもう1頭を下から斬り上げる。

「移動だ。急げ」

 血臭のするそこを、急いで離れる。

 こういう時に腰を抜かすようなかわいいのは、ウチにはいない。宗はなかなか頼りがいがありそうで、体力に難のあるユキを気遣いつつ走り、楓太郎は僕のナップサックも持ってくれていた。エリカとユキも、顔色は悪いが、足取りはしっかりしている。

 やがて川に出、一旦川の中に入って川沿いに歩いてから、また川から出る。これで、また犬が出て来ても、臭いで追跡されることは無い、と思いたい。

 地形はリンクしているのか、廃ホテルに辿り着く。

「この調子でいけば帰れるんじゃないの?」

「地形とかは一緒でも、何と言うか・・・層がずれてると言うのかな。生き物とかはいないだろ」

「だから、このままなし崩しに戻れるとは思えないんだよねえ」

「まあ、今晩はここで泊まろう。暗くなってからだと、移動も危ないしな」

「はい。キャンプですね」

 楓太郎は笑って、

「少し片付けましょうか」

という宗と、ゴミを寄せ始めた。エリカとユキも座布団を雑巾代わりにして床を拭き始め、僕もテーブルやイスを寄せ、直は入り口に結界を張りに行った。

 その夜は昼の残りのおにぎりを分け、早々に休む。

 万が一に備えて見張りはするが、まだ寝ずに済む僕にはどうって事は無い。申し訳なさそうな宗や楓太郎に体質だから気にするなと言って、とにかく休ませた。

 早朝、何かの気配が近くに来たが、悪意は感じず、そのままにしておいた。そしてそれが去ってから入り口に様子を見に行った僕は、悩む事になる。

 そこにお供えのように並べてあったのは、きのこだった。

「きのこの妖精?」

 ああ。どうしたもんかなあ。

 僕はそれをジッと見下ろして、ううむと唸った。




 


 

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