第115話 まつり(2)異界
早朝に作っておいたお弁当とお茶の入った水筒を持って、山中を歩く。札を持ったり外したりして写真を撮りながら歩くが、やはり、宗の写真はいい。古い神社は荘厳さ、静謐さが出ているし、風景はそこらしさがより出ている。そして人物は、楽しそうな笑い声が今にも聞こえて来そうだ。
「この辺でお昼にしようか」
「そうね。そこの石段に座りましょうか。
そうだ。これはおすそわけ」
エリカは石段のそばにある朽ちかけた祠にチョコレート菓子を供えると、手を合わせた。
ついでに僕達も、手を合わせた。どうか、平穏無事に合宿が終わりますように。
そして、お弁当を出す。箸などが要らないように、全部ラップで包んでいて、手で持って食べられるようにしている。青じそと甘酢みょうがと白ごま、カリカリ梅と青じそ、鮭の、3種類のおにぎりと、トマトとピーマンとウインナーの入ったスパニッシュオムレツ。
「おにぎりは、足りなかったらまだあるぞ」
「あ、自分、みょうがの欲しいです」
「ボクは梅の」
「ぼくは鮭にしますぅ」
「私……迷うわあ。みょうが!」
騒がしくも楽しく、食事を摂る。
「今年の文化祭は、大丈夫ね」
「また写真か?毎年同じだと、何か言われないか?」
「そうねえ。じゃあ、手作りのお札作り講座」
「いや、それはだめだから。素人が、やばいからねえ」
「喫茶店とかはどうですか?」
「心霊研究部の喫茶店か?じゃあ、店名は『まあ冥途』とか?3寸のチョロチョロした川をまたいで店に入って、店員の格好が白装束とか?」
「メニューは、大日如来セットとかですかあ。面白いですねえ」
「それで、店内に心霊写真を飾って、希望者は別料金で心霊写真を撮れるの」
「そんなの希望する人――ああ、エリカ先輩は希望する人筆頭でしたね」
冗談を言いながら食事をし、祠の前で記念の集合写真を撮って、次の廃ホテルへ向かった。
静かで、勿論誰もいない。なのに、誰かに見られている気がする。廃墟というのは不思議だ。
「本当に不思議だ。どうして廃業って決まった時に、備品類をそのままにしておくんだろうな。ホテルでも病院でも。座布団とか布団とかお茶の葉とか、捨てとけばいいのに。
まあ、病院のメスとかハサミとかピンセットとかよりは、飛んできても危なくないけど」
僕が言うと、楓太郎が、
「いや、飛んでくるのを前提として考えるのがおかしいです、怜先輩」
と即答した。
いや、居残りがいた場合、飛んでくるんだぞ。すごく危ないからな、あれ。
「廃墟マニアっているけど、楽しいのかねえ」
直が首を捻る。
「まあ、人の好みでしょうね。私にも、ちょっと……虫とか蛇とかがいそうで、苦手です」
ユキは、霊云々より別の意味でビクビクしていた。
「退廃的でどうのこうのとかいうのもわからなくはないですけど、この、ゴミの部分とか落書きが、ガッカリですよね」
宗が、絵になりそうな何枚かをファインダーに収めて言う。
「ねえ、その辺とかいないの?」
残念そうなエリカが、とても残念だ。
「全ての廃棄された建物に霊が住み着いていたらおかしいだろ。
そろそろ行くか」
「そうだねえ」
ゾロゾロと、外へ出る。
「次は、この先の滝ね。ここは、オーブが飛ぶらしいのよ」
ワクワクとした声でエリカが言った。
「オーブねえ」
木々に囲まれた細い道を、1列になって歩く。
と、どのくらい歩いた時だろう。何か、薄い膜を突き抜けたような、急に気圧が変化したような、そんな違和感を感じた。
「おい、全員離れるな」
直は札を用意して、辺りを窺っている。
そんな僕達の様子に、他のメンバーも真面目な顔で集まる。
「何かいるんですか」
楓太郎がビクビクする。
「というより、異界に踏み込んだな」
「……異界……ですか?」
「異世界?」
「ここには魔法もステータスもないだろうけどな」
あるのは、化け物と怪異だろう。また、面倒臭い事になりそうだ。
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