第110話 黒き復讐者(5)牙をむくカラス

 直と一緒に浄霊の仕事を1件済ませて帰る途中、ビルの大型テレビでニュースが流れていた。犬と散歩中の中学生が襲われ、中学生は腕や頭にけが、犬は中学生を守ろうとして、目を突かれて失明したらしい。

 中学生もかわいそうだが、失明とは。

 改めて、犯人に怒りが湧き上がる。

「犯人、早く見つかったらいいのに」

「やっぱり、鳥を捕まえるところを見つけるしかないんだろうねえ」

「そうだろうなあ。それしかないだろうなあ」

 山の中とかなら、それも難しそうだ。

 先行きが不安になる。

 と、1羽のカラスが、目の前に舞い降りて来て、

「かああ」

と鳴いた。

 周囲がギョッとしたが、これは。

「カー吉?」

「かあ」

 当たった。そして、バサッ、バサッと羽をはためかせて、体の向きを変える。

 アオが、

「チチッ」

と鳴いて、カー吉の隣に並んでこちらを見る。

「もしかして、ついて来いって言ってるのかなあ?」

 直が言うと、その通りという風に、2羽揃って頭を上下に動かす。

「何だろう。まあいいや。行ってみよう」

 先導するカー吉を追いかけるように、走る。が、カー吉よ。人間は道を通るのだ。空のように自由にはいかないのだよ。

 必死に追いかけて息も絶え絶えになりながら、どうにか、それらしい所に着いた。

 というのも、その家の周りには、カラス、鳩、スズメ、ムクドリと付近の鳥が勢ぞろいしていたからだ。

「これは……ちょっと怖いな」

「かなり怖いよ」

「兄ちゃんに知らせとこう」

 電話を入れて、来てくれるように頼む。住所はわからないが、僕の居場所なら、スマホでわかるので心配ない。

 やがて兄と沢井さんと近くの交番の巡査が来ると、カー吉に訊く。

「あの家のやつなんだな」

「かあ」

 カー吉は鳴くと、アオと一緒にバサッと上空に飛び上がり、

「カカカカカ」

と鳴いた。

 それで一斉に、鳥という鳥が鳴きながら周囲を飛び始める。

 壮観とも言っていられない光景だ。これが自分を取り囲んでいたらと想像すると、本当に不気味だろうと思う。

「うわあ……」

 巡査が思わずという風に呻くのも、わかる。

 やがてその家の2階の窓が開いて、外を覗いた住人が、ギョッとしたように辺りを見廻した。慌てて窓を閉めようとするが、それよりも先に、カラスが数羽飛び込む。

「うわあああ!や、やめろ!誰か!助けてくれェ!」

 叫び声がし、兄達はその家に行った。僕と直は、このままだ。

 ドアチャイムを鳴らして出て来た男は、血まみれで、泣いている。巡査1人を男につけ、兄と沢井さんともう1人の巡査とで中に入って行ったが、ややあって窓からカラスが出て来ると、兄が続いて顔を出して、箱をこっちに振って見せた。

「あれは、何か証拠になりそうな物なんだろうな」

「良かったあ」

 鳥達は上空でぐるりと一周し、各々、群れで散って行った。

 アオも戻って来ると、直の指にとまって、

「チチッ」

と鳴く。

 カラスの中の1グループも、グルグルと上空を旋回してから飛んで行った。

「やり返したんだな」

「チッ」

「よし」

 男は被害を訴えていたが、兄達に針やエアガン、動画を示されて、項垂れていった。


 その日のニュースで男の逮捕は報道され、未使用の針が2本残っていた事、もう針を刺された動物はいない事が報道され、過激なカラス狩り等は控えるようにと繰り返された。

「もっと酷い被害を受けた人もカラスもいるのに、この程度ならいい薬だよねえ」

「全くだ。それに、いくらカラスの真っ当な報復だと言っても、あんまり酷いと世間の意見がまた微妙になるからな。社会的に制裁をバッチリと受けるんだし、このくらいで良かったよ」

「チッ」

「乾杯だねえ」

 コーヒーとオレンジをアオの水入れに軽く当てて乾杯する。

 空はこれで、元通りになった。

 ただ、ひとつだけ変わったところがある。それは、アオが飛ぶと、どうもその近くの鳥が挨拶をするようになったらしい。

 顔役、なのだろうか。

「まあ、友達が増えて良かったんじゃないか」

「そうだねえ」

「チチチッ」

 アオは得意そうに胸を張って、パタパタと羽を動かした。


 

 



 

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