第109話 黒き復讐者(4)青の奇蹟

 その鳴き声が響き渡り、カラスの統率が乱れた。地上のカラスはキョトキョトとして上を見上げ、上空のカラスは、動きとスピードを乱す。

 そこへ一羽のカラスが、突き刺さる勢いで群れの中へ突っ込んで来る。

 そしてその傍らには、青いインコがいた。

「アオ!?それと昨日のやつ!」

 僕と直は、思わず外に飛び出した。

 2羽は連携して、どうもあるカラスを追っているようだ。飛ぼうとする進路を塞ぎ、頭を押さえ、片方を攻撃しようとすればもう片方が攻撃し、徐々に、そのカラスを地上に誘導して行く。

 そしてとうとうスーパーの入り口前――僕達の前に、そのカラスを追い込んで地面に伏せさせ、アオが頭に乗って、昨日のカラスは、他のカラスに、

「ガーッ」

と鳴いて、睥睨していた。

 急いでそばに寄って頭を見ると、やはりあった。

「針だ」

 抜き取った途端、そいつも急に大人しくなった。

「お前もやられてたんだな」

「かあ?」

 直は、飛び込んできたカラスに言った。

「昨日のカー子だろ」

「かああ」

「カー吉?」

「かあ」

 オスらしい。

「カー吉もアオも、ありがとうな」

「よくやったよ、えらかったねえ」

「チチチッチチッ」

 カラス達はカラス達で何かを話し、やがて、たくさんのカラスは、カー吉と共に一斉に飛び立って行った。

 今、針を抜いたカラスは、グループのボスだったらしい。

「カラスの汚名がそそがれて、カラスに報復なんてする人が出なければいいが……」

 背後には、ネットに投稿しようとする人達がいっぱいいた。


 男は、ジュースの空き缶を潰して、

「クソッ、また邪魔された」

と毒づいた。

 自分の代わりにカラスが攻撃してくれたら、スッとした。細かい指示はできないので、アレを襲えとかは言えないのだが、それでも、楽しかった。

 針は6本。1本は場所が違っていたらしくて効き目がなかった。1本は失敗したらしく、放した後で死んでしまい、死体は保健所に回収された。2本は、インコと人間に抜かれた。未使用はあと2本だ。

 今度は、鳥以外の動物にしてみようか。犬の脳の解剖図ならあるし、ハムスターを使えばもっと狭いところにも潜んだり侵入したりできるから、面白いかも知れないな。

 ただ、動画で撮り難い場所なら困るな。よその家とか、店の厨房とか。

 次はどの動物を使うか、ニタニタとしながら男は頭を悩ませ始めた。


 操られていたカラスと、人を救うインコとカラス。その動画はすぐに拡散していった。

「うちのアオがあ。へへへっ」

 嬉しそうに直が笑い、アオがご機嫌でおやつのレタスを齧る。

「針の刺さったカラスって、他にどのくらいいるんだろうな」

「何か、分かる方法があればいいんだけどねえ」

「凶暴なのを捕まえてみる、くらいしかないからなあ」

 いい方法が、思いつかない。

 このまま、対処、対処でいくしかないのだろうか。でも、針がいつも上手く抜けるとは限らない。

 大体、あの針が何本仕掛けられたかもわからないのだ。

 警察もパトロールを強化するなどしているが、犯人を捕まえない限り、不安が続く。

「どんなやつが犯人だろうな」

「ろくでもやつには違いないよ」

 2人と1羽は、頷き合った。




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