第108話 黒き復讐者(3)人とカラス

 男は双眼鏡で辺りを見廻しながら、チッと舌打ちをした。

「せっかく捕まえてピンを打ち込んだのに、またやり直しじゃねえか。なるべくボスっぽくて、尚且つ群れじゃないやつって、結構難しいんだよなあ」

 しばらくそうしていたが、

「おっ」

と、嬉しそうな声を上げた。


 困ったら兄に相談すれば上手く行く。僕と直は、兄に電話した。

 すると兄と沢井さんが来て、車で、大学の獣医学部に連れて行かれた。カラスは大人しく、まるでペットのように聞き分けがいい。

「ここですか」

 医師がカラスの頭を見て、刺さっていた位置を確認し、針を見、言った。

「闘争本能を刺激されたんじゃないかと思いますね。闘争本能を司る能がこの辺にありますから。ヘタな刺さり方なら、脳が傷付いて、死んだりもしたでしょうね」

「命拾いしたなあ」

「かあ」

「チッ」

 2羽は、返事した。それに医師はちょっと笑って、

「死んでしまったのもいた筈ですよ。酷い事をする」

と静かに怒った。

「針は、こっちで調べてみよう」

 兄と沢井さんとは、家の近くまで送ってもらって、そこで別れた。

 カラスは上空に放ち、

「じゃあな。お前も気を付けるんだぞ」

と言っておく。

「かあ」

 と返事をひとつして、カラスは飛んで行った。

「何か、いいやつだったな」

「そうだねえ」

「チッ」

 カラスを見送って、僕も家へ帰った。

 翌日学校へ行くと、新たな動画が話題になっていた。カラスが、子猫、子犬を襲い、そればかりか、乳児を襲ったというのだ。

 幸い子供にけがは無かったらしいが、テレビでも、カラスの報復かと話題になっているそうだ。

「ゴミ捨て場で逆さ吊りにされてたから?それとも、頭の針?」

「カラス対ヒト、仁義なき戦いの始まりかなあ」

 外を歩くのも大変だと、気が重い。アオに気を付けろと言ってきたが、今度はこちらが危なそうだ。

「わ、速報だって。後ろから迫って来たカラスに驚いたお爺さんが、歩道橋から落ちて重症だって。あと、32歳のサラリーマンが頭と耳を突かれて、耳を食いちぎられたって」

「こわーっ!」

 エスカレートするカラスの報復とも取れる攻撃に、僕と直は言い知れぬ予感を感じていた。

 絶対に、ろくでもない何かがある、と。

 ああ、面倒臭い。


 放課後、スーパーに寄って買い物をし、出ようとしたところで、入り口付近が人でいっぱいなのに気付いた。そして彼らは皆、空を見上げている。

「雨か?」

 窓から見ても、晴天で降っている様子はない。

「UFOだったりしてねえ」

 なさそうだ。

 いや、何か飛んでいる。

「UMA!?」

「いや、カラスよ」

 隣にいた、知らない小母さんが教えてくれた。

「さっきから急にカラスが集まり出して、歩いてた人は、怖くて建物の中に避難してるのよ」

 何とか見ると、路上や自転車の上に止まっているカラスが30羽以上おり、上空にも、カラスがギャアギャアと鳴きながら飛んでいた。

「これは……怖いですね」

「でしょう」

「ここに何かあるのかなあ?」

「んん……食べ物?食べ物を買って出てくる人を待ってるとか?」

 それを聞いていた1人が、トイレットペーパーを掲げて、

「食べ物じゃないよ」

と出てみたが、近くのカラスに一斉に注目され、逃げ帰って来た。

「あれは怖いよ。無理」

 落胆のざわめきが広がる。

「いつまでもこうしてはいられないのに」

「何か方法は無いのか」

 困惑と苛立ちが充満していく中、一際大きく、声が響いた。

「カアーッ、カカカカカッ」









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