第107話 黒き復讐者(2)針

 直と学校に向かっていたが、ふと、カラスの姿が多いのに気付いた。

「あれ?なんかこのあたりだけ、やたらとカラスが多いな」

「ゴミが散乱してるのかなあ」

 言いながら歩いていると、立ち話をしている主婦の会話が耳に入った。

「カラスが?」

「そう。よくオモチャのを逆さまに吊るすでしょ、ゴミを荒らさないように。あのカラス、本物を誰かが吊るしてたんですって」

「んまああ」

 すぐそこのゴミ捨て場を見た。今はビニールのゴミ袋が積まれてネットが被せられているだけだが、あそこに、本物のカラスの死体が逆さまに吊り下げられていたらしい。

 辺りを見ると、やたらとカラスが集まって電線や塀に止まり、「カー」と鳴きながら、こちらを見ていた。

 無機質にも見えるガラスのような目が、何とも不気味に見える。古来神様の使いでもあるというのに、随分な扱いではあるが。

「逆さ吊りにした人に、報復する気かなあ」

「カラスは頭がいいから、何か、しそうだよな」

 鳩を襲う動画を思い出した。一斉にカラスがヒトを襲いだしたら、と考えると、ゾクリとする。子供でなく大人でも、危険そうだ。

「面白半分だろうけど、やめて欲しいよねえ」

「うん。いい迷惑だな」

 心なしか足早に、僕達はそこを離れた。


 学校ではカラスの姿は見なかったが、放課後、本を借りに直の家に向かう途中では、やっぱりカラスが多いと感じた。集まる地域があるらしい。

「アオ、本当に気をつけろよ」

 インコのアオは、首を縦に振って、

「チチッ」

と返事する。本当に賢いな、こいつは。

「アオが襲われたらと思うと……」

 直が言うと、アオが元気づけるかのように、

「チッ、チチチッ!」

と肩の上から鳴きながら、髪を突いた。

「アオォ」

 いいなあ。ほのぼのとしていると、表で、女性の悲鳴がした。

「開けるぞ」

 言ってから、玄関ドアを開ける。

 ちょうど家の前で、60歳くらいの女性が、カラスの襲撃に遭っていた。傘で防いではいたが、傘にカラスのくちばしが刺されば、簡単に破れるだろう。

 小石を投げて気を引き、神力の風をぶつける。

 カラスは「ガア」と鳴いてヨタヨタと落下し、路上をヒョコヒョコと歩いて、それでも向かって来ようとする。

 それに、青い矢のようなものが突き刺さって行く。

「アオッ!」

 アオだった。

「チッ」

 鋭く一声鳴いて、カラスの頭に足をかける。カラスはバサバサと羽を広げて抵抗し、アオはそれでも、頭から足を離さない。

「ん?何か光った?」

 アオの足の間、カラスの頭に、何かある。

 ちょっとカラスの動きを縛って近付いてよく見ると、頭に、裁縫で使う待ち針のようなものが刺さっていた。

「何だ、これ。抜いてもいいのかな」

「抜いてみる?」

 恐々ながら、抜いてみた。

 カラスはそれまで興奮していたが、抜いた瞬間から急に大人しくなり、キョトンとしたように僕達を見た。

「チチッ」

 アオが鳴くと、カラスはアオを見て首を傾げ、

「カア」

と鳴く。

「チッチチチッ」

「カアア、ガッ、ガッ、カカカカカ」

「チチッ」

 鳥の間で、会話が成立しているらしい。

「物凄く珍しいものを見てるんだろうな、多分」

「しまった。これこそ、動画で撮っておくべきだったよ」

 そんなものである。

 待ち針みたいなものは、一応どこかに持って行くべきだろうが、どこへ?

「市役所?保健所?警察?」

「……どこだろうねえ?」

 人2人と鳥2羽、揃って首を傾けた。









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