第92話 透明人間(2)対面

 朝、職員室に行き、ちょっと調べてみる。事情はすぐに分かった。

 次に、昼休みに中庭で楓太郎を待つ。

 今日も楓太郎はこちらの姿を見つけると、ニッコリ笑って転がるように駆け寄って来た。

「先輩!こんにちは。もしかして待っててくれたんですか」

「まあな。どうだった」

「はい。出席では名前を呼ばれました!それと、プリントも回ってきました!もう少しです。ぼく、がんばりますよ!」

 直もうんうんと頷いている。

「そうか。ところで、ちょっと付き合ってもらいたいんだがな」

「大丈夫。先生の許可はとってあるからねえ」

「?はい!」

 わからないままに、楓太郎は僕達に付いてきてタクシーに乗り、そこへ向かった。

 暮ヶ丘病院、外科病棟。

「何ですか、ここ。誰かのお見舞いですか」

「ん、まあな」

 着いたのは、ある個室だ。

「失礼します」

 声を掛けて、ドアを開ける。クリーム色で統一された病室の真ん中にベッドがあり、患者が1人、横たわっていた。

「え……」

 高槻楓太郎である。

「入学式を前に、交通事故に遭ったんだけど。覚えてるかなあ?」

「えっと……」

「学校に行きたい。その一念で魂だけ抜け出してるもんだから、意識がまだ戻らないんだって」

 楓太郎は血の気の引いた顔で、ジッと自分を見ていた。

「出てばかりだと、このまま死ななくてもいいのに死ぬぞ」

「えっ」

「実際の楓太郎は学校を休んでるんだ。だから、霊感の無い人には見てもらえない。

 詰まんないよねえ、それ」

「戻って、今度は本体で来い」

 廊下から、見えないまでも、連絡を受けた両親が様子を見守っていた。

「お父さん、お母さん。ごめん。今思い出した」

 楓太郎はふにゃっと涙ぐんで、次いで、ニッコリとした。

「ありがとうございました。全く、覚えていませんでした。何でだろうなあ」

「早く行きたい。新しい環境に慣れよう。そう思ってたんだろうなあ、事故の時に強く」

「はい、思ってました」

「楓太郎なら大丈夫だよう。すぐに友達ができるから、とにかく早く、ケガを治す事だねえ」

 直が、弟でも見る気分なのか、頭を撫でる。うん、その気持ちはよくわかる。こいつは、マメシバだ。

「はい、先輩。入部していいですか」

「おう、歓迎するぞ。今年の新入部員一号にしといてやる」

「はい!」

 楓太郎は泣き笑いでふわあっと本体に倒れ込むようにして重なって、入って行った。

「高槻さん。今、戻りましたから」

 それで、2人は病室へ飛び込んできた。

 その後しばらくして、部室に松葉杖をついた新1年生が入部届を持って現れた。




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